神々のハード・ロック、霧深き山嶺に鳴り響く【第55回】著:川崎大助
川崎大助『究極の洋楽名盤ROCK100』

戦後文化の中心にあり、ある意味で時代の変革をも導いた米英のロックミュージック。現在我々が享受する文化のほとんどが、その影響下にあるといっても過言ではない。つまり、その代表作を知らずして、現在の文化の深層はわからないのだ。今を生きる我々にとっての基礎教養とも言えるロック名盤を、作家・川崎大助が全く新しい切り口で紹介・解説する。

47位
『[レッド・ツェッペリン Ⅳ]』レッド・ツェッペリン(1971年/Atlantic/英)

Genre: Hard Rock, Blues Rock, Folk Rock
[Led Zeppelin IV] – Led Zeppelin (1971) Atlantic, UK
(RS 69 / NME 106) 432 + 395 = 827

 

 

Tracks:
M1: Black Dog, M2: Rock and Roll, M3: The Battle of Evermore, M4: Stairway to Heaven, M5: Misty Mountain Hop, M6: Four Sticks, M7: Going to California, M8: When the Levee Breaks

 

※48位、47位の2枚が同スコア

 

キャリアのなかで、最も売れた1枚だ(これまでに約3千万枚)。「天国への階段」の邦題で知られるM4が収録されていることでも有名だ。またM1、M2は、ブルージーなハード・ロックの「極点」に旗を立て、永遠の炎を身中に宿した名曲だと言っていい。本作の成功により、「レッド・ツェッペリン」の名は、まるで北欧神話の神々のごとく、アメコミ実写版のごとく「人間離れしたスーパーヒーロー」が揃い踏みした集団の記号として、燦然と輝く後光をつねに背負うことになる。

 

と、そんな成功作なのに、本作は正式なアルバム名がたぶんない(「IV」というのは、通称だ)。ギタリストのジミー・ペイジ以外はだれも読めない、ルーン文字のような謎記号が、LPレコードを格納する「内袋」に印刷されているだけだった。曲名もここにのみ記されていた。そしてスリーヴには、文字はない。バンド名すら記載されていなかった。もちろんレーベルは嫌がったのだが、ペイジが押し通した。

 

傑出したロック・ギタリストであり、作曲者でもあるペイジは、レッド・ツェッペリン全アルバムのプロデューサーでもあった。不評だった前作を糧に、この4作目を制作時の彼は、これまで以上に「入れ込んだ」。その証しのひとつが、謎記号にあらわれる神秘学やオカルト趣味、それから、英南東部にある18世紀に建てられた邸宅「ヘッドリィ・グランジ」での録音へとつながっていった。ローリング・ストーンズ所有の「モービル・スタジオ」ーートレーラー内部に調整室のすべてを詰め込んだ、移動式の特注システムーーをレンタルして使用、この屋敷特有のアンビエンスを活かして楽器類を録った。これがうまく作用して、もしかしたら神霊のご加護などもあって、彼らの「スーパーパワー」を一方向へと集中させることに成功した。

 

たとえば、前出のM4。ハード・ロックとトラッド・フォークが融合した上を、チタン合金が人の形になってそのまま歌っているかのような、ロバート・プラントの強靭なハイ・トーンが突き抜けていく。これを挙げてない「ロック名曲集」があったならば見るに値しない、と言うほどの超名曲だ。彼らの音楽は、ヘヴィ・メタルとして小さくまとまる、という易き道の「まったく逆」をこそ指向した。そして本作にて、ハード・ロックの枠をも軽々と超え、ロック音楽の全域のどこから見ても「そこにあることがわかる」まるで巨大灯台のような域へと到達した。

 

次回は46位。乞うご期待!

 

※凡例:
●タイトル表記は、アルバム名、アーティスト名の順。和文の括弧内は、オリジナル盤の発表年、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●アルバムや曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、収録曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
●収録曲一覧は、特記なき場合はすべて、原則的にオリジナル盤の曲目を記載している。

 

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究極の洋楽名盤ROCK100

川崎大助(かわさき・だいすけ)

1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌『ロッキング・オン』にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌『米国音楽』を創刊。執筆のほか、編集やデザ イン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌『インザシティ』に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)がある。

Twitterはこちら@dsk_kawasaki

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