akane
2018/10/18
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2018/10/18
東大出身の地下アイドル、桜 雪(仮面女子)が、起業家や研究者、企業の社長たちに「10年後幸せになるヒント」を聞いてみた!
対談集『ニッポン幸福戦略』発売を記念して、対談の一部を紹介します。6回目のゲストはロボットクリエイター 高橋智隆さん。モバイル型電話ロボット「ロボホン」の生みの親である髙橋さんに、ひとりで研究開発をしている理由、近未来におけるロボットと人間の関係性についてお聞きしました。
「自分が欲しいロボット」をつくる
桜 ロボットクリエイターとして、またロボ・ガレージという会社の社長、東京大学の特任准教授として、普段どういう活動をされていらっしゃるのですか?
高橋 ロボットの研究開発、設計デザイン、試作、プログラミング、それから商品化に向けたことまでひととおりぜんぶやります。京都大学工学部を卒業するときにベンチャーを創業し、京大内に事務所を置いていたんですが、約10年前に東大の先端科学技術研究センターにお招きいただき、東京に引っ越してきました。いまは事業と研究が半々という状態ですね。
桜 ロボットをつくるって途方もない、突拍子もないことのように感じるのですが、どういうものをつくろうと考えているのですか?
高橋 「自分が欲しいロボット」をつくっています。むしろ「高齢者の役に立つロボットをつくろう」と思っても結果おじいちゃんにはありがた迷惑なロボットになってしまうし、「女子高生にバカ売れするロボットをつくろう」と目論んでもまったく売れないはず。「人のため」だとそんなミスマッチが起きがちなんです。だから、自分のために、自分の感性に素直につくれば、とりあえず自分が欲しいものはできます。
桜 他人にも勧めやすいですよね。「これが超いいよ」って。
高橋 そうですね。結果的に同じ価値観を持った人には支持してもらえます。
桜 高橋さんがロボ・ガレージを創業したときは、いずれ真のロボットブームが訪れると予見していたのですか?
高橋 いや、ぜんぜん。僕は好きでやっているので、あまりブームとかは関係ないんです。ビッグビジネスになるかどうかも別にどうでもよくて、自分でつくって、自分ひとりの食い扶持さえあったらいい(笑)。
たぶんスティーブ・ジョブズさんやビル・ゲイツさんも同じで、最初から「これは儲かるぞ」と思って始めたのではなく、単にオタクだったというか、好きでやっていたと思う。そのうち世の中がコンピューターだ、インターネットだと言い出しはじめたので、「じゃあ少し色気を出して商売っぽくしたろうかな」という感じで成功しはったんじゃないかと。第一世代というか、黎明期のころの人たちは、だいたいそうだと思いますよ。
桜 優秀な起業家やクリエイターは先を見る能力があって、何かに賭けることが上手というイメージがあったのですが、高橋さんはただ好きでやっていたんですね。
高橋 そうです。第二世代、例えばフェイスブックのマーク・ザッカーバーグさんのような人はきっと「これは儲かる」と思ってネットの世界に入ってきたのかもしれないけど……。もちろん、世の中の流れを読んでうまく勝負をして成功するというのはひとつの才能だと思うし、比較対象がビッグネームすぎですが(笑)、僕もたまたま始めていたことを生かしつつ、世の中を変えていけたらとは思っています。
研究室に助手も学生もいないワケ
桜 会社を興されて、一緒に研究開発をする仲間がいるわけですよね。
高橋 実は、誰も雇ってないんです。
桜 えっ!いまもひとりなんですか?
高橋 ええ。ここの研究室も僕ひとりで使っていて、助手も学生もいないんです。なぜかというと、そもそも自分の思いどおりにつくりたいから。
もうひとつは、みんなで相談しながら進めると〝普通〟になるからです。ひとりの思い込みやこだわりで突っ走ると、良くも悪くもユニークなものができる。でも、5人、10人で相談して民主的に決めた時点で、極論をいえば、どこで誰が決めても同じ結論にたどり着いてしまう。
桜 平均的になってしまう。
高橋 ロボットみたいな新しい分野にとって、平均的なものをつくったところで何の進歩もない。とにかく自身のこだわりを貫きたい。
もう一点、試行錯誤の中に発見があり、学びがあるんです。助手や外注に下請けに出して代わりにやってもらったりすると、僕に何も残らない。自分自身が苦労しながら開発をしないと、僕が空洞化してしまうんです。それって企業や国のレベルでも起きていることではないかなと。日本企業が韓国メーカーにテレビの開発を委託していたら、いつの間にか向こうの技術力が上回ってしまったとかね。それは個人レベルでも起きることなので、面倒でも自分で手を動かさなしゃあないと(笑)。
桜 子どものころ、お父様の教育方針だったのか、超合金を買ってもらえなくて自分で紙のロボットをつくったと聞きました。それって「自分の好きなものを自らの手でつくる」という高橋さんの原点だったのではないかと思うのですが。
高橋 あ、どちらかというと母ですね。教育についての何か一家言があったわけでは決してなくて、母がゴテゴテした子どもだましの流行の玩具が家に転がっているのが嫌だったみたい。だったら自分でつくらなしゃあない、と思ってブロックや紙工作でつくっていたら、だんだんと売っている玩具よりもええもんができるようになっていったんです。
では、自分でつくれると、大人にとってどんな良いことがあるか。一般的には企画書を出して、「こういうものをつくりたい」と言ってお金と許可をもらい、いろんな人に頼みながらつくっていくわけです。
僕の場合はそうではなく、自分が先につくれる。すると、主導権を取れるんです。実物があれば、説得力が違います。プレゼンを紙ベースでやると「いいと思うけど、もうちょっとこうしたらどう?」といろんな人がいろんなことを言い出して、コンセプトなんかズタズタになってしまう。でも、実物を先に自分でつくってしまえば、それどおりのプロジェクトが進むんです。つくる能力というのはものすごく大事だったんだなとあらためて思います。
誰もが肩に「目玉おやじ」を持つ時代
桜 2016年には二足歩行が可能なモバイル型電話ロボット「ロボホン」も発売されました。コミュニケーションロボットというのは生活を便利にすることが目的というよりは、コミュニケーションそのもののほうが重要だとお考えですか。
高橋 いや、生活を便利にするほうです。便利にすることを、感情移入を含めて行うものというか。
ロボットだと一生ずっと関係が続いていく。当然、情報を集めて、その人に合わせたサービスを返してくれるし、その中で信頼関係が生まれるし、経験を共有してきたこと自体が価値になる。つまり、便利だということと、愛着や感情移入という人間ならではの感情が合わさった先に、より新しいサービスが生まれたりするのではないか、テクノロジーと寄り添う暮らしというのが実現するのではないか、と思っているんです。
桜 信頼関係というのが新しいですね。
高橋 人間の生活を助けるため、また他のロボットや機械や情報と人間をつなぐためのインターフェースとなるためにロボットがいるんだと僕は思っています。つまり、スマートフォンの延長です。ひとり1台スマホを持ち歩く代わりに、小さなロボットを持ち歩くのだろうと。
『ゲゲゲの鬼太郎』の目玉おやじでも『魔女の宅急便』のジジでも『ピノキオ』のコオロギ君でも何でもいいですが、ちっこい物知りな相棒が肩なり頭なりポケットなりにいて主人公を助けてくれる、というイメージですね。
桜 それはすごく頼もしい存在になりますね!
高橋智隆(たかはし・ともたか)
ロボットクリエイター、ロボ・ガレージ代表取締役社長。1975年、大阪府出身。2003年、京都大学工学部物理工学科メカトロニクス研究室卒業と同時に「ロボ・ガレージ」を創業、京大学内入居ベンチャー第一号となる。代表作にロボット電話「ロボホン」、ロボット宇宙飛行士「キロボ」、デアゴスティーニ『週刊ロビ』、グランドキャニオン登頂「エボルタ」など。ロボカップ世界大会5年連続優勝。米TIME誌「2004年の発明」、ポピュラーサイエンス誌「未来を変える33人」に選定。開発したロボットによる3つのギネス世界記録を保持。東京大学先端科学技術研究センター特任准教授、大阪電気通信大学総合情報学部客員教授、ヒューマンアカデミーロボット教室顧問。
(文/堀 香織)
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