akane
2018/10/25
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2018/10/25
東大出身の地下アイドル、桜 雪(仮面女子)が、起業家や研究者、企業の社長たちに「10年後幸せになるヒント」を聞いてみた!
対談集『ニッポン幸福戦略』発売を記念して、対談の一部を紹介します。最後のゲストはSHOWROOM代表取締役社長 前田裕二さん。無料で視聴・配信できる仮想ライブ空間「SHOWROOM」を運営している前田さん。「ファンからの直接的な応援によってコンテンツ経済が成り立つ」いま、彼の考えるエンターテインメントの未来とは?
エンタメは中央集権型から自律分散型へ
桜 前田さんが運営されているSHOWROOMは、アーティストやアイドル、タレントなどがライブ配信をして、視聴者とコミュニケーションを楽しむウェブサイトですよね。無料で視聴でき、無料で配信できる「仮想ライブ空間」というアイデアはどこから生まれたのですか。
前田 原点は、実はギターなんです。8歳で両親を亡くしたこともあり、小学6年生のときから駅前に立って弾き語りをしていました。ギターケースの中にお客さんがお金を入れてくれて、自分がどんどんパワーをつけていくという体験が強く自分自身に残っていて、それがSHOWROOM立ち上げのおおもとになっています。
つまり、ストリートパフォーマンスをネット上に再現したのがSHOWROOM。インターネット上で演者がパフォーマンスをし、そのパフォーマンスに感動した視聴者が対価として、例えば花束や東京タワーというバーチャルギフトを投げるという仕組みで、そのギフトは一定の比率で(間接的ではありますが)演者さんに分配されています。
桜 ネット上にいろんなストリートがあるイメージですね。
前田 そうです。
これまでの日本のエンターテインメントのあり方というのは、桜さんが所属する仮面女子やそれこそAKB48もですが、演者と視聴者の間にたくさんのステークホルダーがいます。
例えばアーティストのCDをつくるには作詞家、作曲家、アレンジャーという音楽家やパッケージするメーカーが必要で、そのCDをお客様に届けるには流通と小売店が必要です。要するに、演者と視聴者の間にそれだけたくさんの関係者が存在しているので、視聴者が1000円を支払っても、演者にお金が入る段階ではほとんどが削られて、かなりの少額になる。
一方で、演者は自分ひとりの力ではそこまで多くのオーディエンスに届けることができなくて、その間の人たちの力を使ってより多くの人に届けられるというメリットも享受している。これは感謝しなくてはならない。
ただ、そのモデルの限界は、CDデビューという仕組みがあくまで「選ばれし者」に向けたものであったということ。つまり、これまでのエンターテインメントのあり方では、音楽を志す人たちのほとんどが、自分自身の才能や音楽への情熱をお金に換えられずにいた。もっと言ってしまえば、エンターテインメントのあり方が、すごく集中的・中央集権的だったと思うんですよね。
例えば、ひとりに対して100万人のファンがいるという構造があったとして、「そのひとりになりたい!」と思ってみんな頑張りますよね。ただし、「そのひとり」になれる人は、100万人目指してひとり程度の、ひどく希少な存在です。
桜 選ばれしものだけがエンターテイナーになれた。
前田 まさに。でもいまは、それがより分散型になっている。ひとりに対して100人くらいのオーディエンスしかいなかったとしても、その100人が、「どうやったらもっと多くの人に広がるか?」と常に一緒に考えてくれるような、運営として動いてくれる熱量の濃いファンだったらどうか。
実際、そうした濃いファンからの直接的な応援によってコンテンツ経済が成り立つ、という現象が起きはじめている。中央集権的なエンタメのあり方が、自律分散的なあり方に移っている、というのは、いまこの瞬間起きている大きな変化だと思います。
「リアリティー」と「インタラクション」というキーワード
桜 現代の若者はテレビをあまり見ませんよね。むしろ低予算で限られた人数だけで制作されるユーチューブのほうが楽しいという人がすごく増えている。ただ、個人の判断でなんでもかんでも「エンターテインメント」として発信したとして、そういった質の低いコンテンツが大量に流されることにより質の高いコンテンツが埋もれてしまうことに関してはどう思われますか?
前田 これは「そもそも質とは何か?」という議論が必要ではないでしょうか。結構勘違いされやすいと僕は思っているのだけど、質を決めるのは供給者ではない。SHOWROOMでいうなら演者側ではない。これはすごく大事なポイントなんです。
仮に「コンテンツとは、映像やテキスト、画像という何らかの媒体を通じて受け手を楽しませるものである」と定義したとして、これまでの風潮だと「予算がかけられ、台本もあり、リハーサルもあり、大勢でつくった洗練されたコンテンツは質が高く、素人がつくったコンテンツは質が低い」とされてきましたが、近ごろは明確に変わってきている。
その大きな軸が「リアリティー」と「インタラクション」のふたつです。
リアリティーについては、つくり込めばつくり込むほど視聴者にとってはドキドキワクワクしないものになっていく、という消費者側の流れがあります。特に2011年の東日本大震災後、「テレビに映されたものすべてが真実というわけではない」と気がつき、疑問や恐れを持った視聴者がとても多い。
そこで、「実際に重要なのはメディアが言っていることよりも、自分の目に見える範囲で助け合いができること、その感情の共有だよね」という想いに至った。テレビコンテンツでいうところの、『めちゃイケ』ではなくて『ザ!鉄腕!DASH!!』だよね、という世の中に変化したと思うんです。
桜 確かに嘘っぽさにはすごく敏感になったかもしれません。嘘っぽくても面白いと思えたものが、嘘っぽいものよりも検証番組のほうが面白く感じるようになった。
前田 そこにリアリティー、つまり次の瞬間に何が起こるかわからないドキドキ感を感じはじめたわけです。誰かがつくり込んだ虚構の世界より現実世界のほうがよりドキドキする、それが楽しいと思っている消費者は増えてきたと思いますね。
もうひとつの「インタラクション」という観点も重要で、双方向にやり取りができるかどうかということがコンテンツの質をかなり定義している。例えばテレビにツッコミを入れてもボケが跳ね返ってくることは絶対にないですが、LINEであれば、相手に突っ込むと、何らかのリアクションが返ってくるわけです。そこで「自分が人間として認められている」というような、生きた実感を得られる。
今後はインタラクションが設計されているかどうかがクオリティーのひとつの定義になってくるかもしれない、と思います。
桜 アイドルのファンはまさに、自分がどれぐらい応援できているか実感したいという方が多い。一方でアイドルの存在定義も変化していて、以前は本当に何千人から選ばれた唯一無二の人でしたが、いまはtwitterを立ち上げて「私はアイドルです」と言えば、もうアイドルみたいなところがあります。
前田 確かに誰でもアイドルになれる時代ですよね。世の中全体が知っている人気者、例えば矢沢永吉や松田聖子級になりたいということであれば戦略は多少変わってきますが……、いまは発信者かつ受信者という両面性を持たせていくことができる時代だと思うんです。要するに、誰もが発信側に回って、日本国民1億3000万人が全員クリエイターになる時代が来る。
桜 1億3000万人が全員クリエイターに……!
前田 人間は誰しも、深く掘っていけば、その人なりの面白い個性がある。それがコンテンツとして表に出ていき、数百人規模のファンが紐づいていけば、社会はもっと多様なコンテンツにあふれるんじゃないでしょうか。
これはもう時代の流れだし、そもそも人間のニーズはもともと多種多様であり、最大公約数的にひとつに閉じ込められない。例えばテレビでペット動画が延々と流されると、ペット好きではない人まで「猫って可愛いな」という気持ちになっちゃうじゃないですか(笑)。でもいまは釣り好きの人は一日中ユーチューブやアベマTVで釣りのコンテンツを見ていればいいし、釣りの中でもバス釣りが好きな人はバス釣りの動画をずっと見ていればいい。
ユーチューブもSHOWROOMも、人間の多様なニーズを多様なまま受け止めることができるような供給体制が整っているんです。これから僕らが知っているエンターテインメントの常識はひっくり返るでしょうね。
前田裕二(まえだ・ゆうじ)
SHOWROOM代表取締役社長。1987年、東京都生まれ。2010年に早稲田大学政治経済学部を卒業後、UBS証券株式会社に入社。11年、UBS Securities LLCに移り、ニューヨーク勤務を経た後、13年に株式会社ディー・エヌ・エー入社。〝夢を叶える〟ライブ配信プラットフォーム「SHOWROOM(ショールーム)」を立ち上げる。15年に当該事業をスピンオフ、SHOWROOM株式会社を設立。ソニー・ミュージックエンタテインメントからの出資を受け、合弁会社化。現在は、SHOWROOM株式会社・代表取締役社長として、SHOWROOM事業を率いる。17年6月には初の著書『人生の勝算』を出版、アマゾンベストセラー1位を獲得。
(文/堀 香織)
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