akane
2018/10/23
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2018/10/23
対談集『ニッポン幸福戦略』発売を記念して、対談の一部を紹介します。6人目のゲストはDMM.com会長の亀山敬司さん。インターネット黎明期に機先を制して配信事業を興していますが、その独特の嗅覚やチャレンジ精神はどのように養われたのか? 若くして事業を成功させるヒントを聞きました。
『バック・トゥ・ザ・フューチャー2』を見て起業
桜 私がDMM.comに興味を持ったのは2017年、ジャングルをイメージしたという新オフィス完成のニュースでした。
総合受付のある24階のエントランスには壁一面に滝のデジタルアートが広がり、社内には250種類超えの植物が植えられている。インスタ映えするオフィスとはこのことだ! いったいどんな企業なんだろう? と思って調べたら、予想以上にいろんな事業を手がけていらしていて。
いま、年間売り上げや従業員数はどれぐらいなんですか?
亀山 すごいところから聞くね(笑)。年間2,000億円くらいで、従業員数は3,300人くらいかな。
桜 大企業ですね! もともとはインターネット黎明期であった1998年に配信事業をスタートしたことから始まったのだとか。これは非常に速かったというか、先見の明があったと思うのですが。
亀山 配信といっても最初はエロだから(笑)。
もともとレンタルビデオ店を経営していたんだけど、ビデオレンタルは映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー2』(1989年公開)の時代(映画内で描かれた、2015年の未来)になったらなくなると確信し、何かしなくてはいけないと思った。それでコンテンツやインターネットという方向に舵を切ったんだ。
“やってみたもの勝ち”の時代
桜 そもそもDMMが多岐にわたる事業をやっていらっしゃるのは、ご実家がいろんな商売をしていた影響はありますか。亀山さん独特の嗅覚やチャレンジ精神も、そこから学ぶものが大きかったのかなと。
亀山 そうかもしれない。親がうどん屋や海の家をやっていて、海の家は小学生のころから呼び込みを手伝っていた。子どもが客寄せすると「あの子一生懸命ね!あそこに行きましょう」となるんだよ。
桜 それが「ビジネスって楽しいな」と思うようになったきっかけですか。
亀山 小遣いがもらえたわけではないけれど、繁盛しているという状況、稼ぐという行為が楽しかったね。「俺がやったんだ!」という達成感も感じるし。
桜 小学生ですでに「稼ぐ」ということを意識できていたんですね。例えば「こういうことをしたら稼げるのではないか?」という思いつきはあっても、実際には始められない人がほとんどだと思うのですが、どんな障壁を越えればビジネスにできるのですか。
亀山 やっぱり、とりあえずやってみるのが大事かな。思い切りとかスピードが大事。俺より優秀な人はこの世にたくさんいるけれど、俺はやりながら考えることで、実践のノウハウを理解する。いまの時代は変化が速いから、ベンチャーにとっては狙い目なんだよ。
さっきのアマゾンの話でいうと、俺は当時日本にも上陸するだろうと踏んで、Amazon.co.jpのドメインを取ろうとした。でもすでに取得済みだったので、その取得先に「私の会社と提携してください」と電話したんだ。IT事業は始めたばかりなのに「私はITに詳しいです」と言ってね。
若いときは、そうやってハッタリでもいいからやってみること。言ってみたもの勝ち、やってみたもの勝ちなんだから。いまの子はみんな頭で考えすぎる。
桜 とにかく思い切ってやってみるしかないと。
亀山 日本は社会全体が「恥をかいちゃいけない」「下手を打っちゃいけない」という風潮でしょう。確かにいまの俺ぐらいの年齢で下手を打つと取り返しがきかないけれど、10代や20代でちょっと恥かいても、むしろ「昔あんなことあったな」と将来話のネタになる。
ヤンキー、オタク、東大がいれば、新しい風が起こる
桜 では、勢い以外でDMMに入社できる人はどんな人ですか。
亀山 社員に関しては大卒が普通で、東大卒とか早稲田卒もいるし、エンジニアはエンジニア力で即採用する。でも俺が採用するアカデミーに関しては、とにかく勢い。アフリカ案件に関しては、日本語のできるアフリカ人やフランス人、英語ができる日本人がメインかな。うちはヤンキーはいるわ東大卒もいるわ、黒人も白人も中国人もいる。
会社はチームだから、オーケストラみたいにワーッと激しくバイオリンを弾く奴もいれば、後ろでボンボンと太鼓を叩いている奴もいるわけ。いい音になるのは、結局国籍も多様で、キャラもオタクからヤンキーまで雑多にそろえているからじゃないかな。
桜 目を離しているうちにとんでもないことしている人はいますか?
亀山 うちは会社ごとにルールがバラバラなんだよ。営業系は俺が通りかかると「おはようございます」と言うけれど、エンジニア系は俺が行っても無視してずっとスマホを見ている。
桜 えーっ(笑)!?
亀山 近ごろはどこでも「ダイバーシティ」と言うけれど、うちは簡単に言うと、ヤンキーとオタクと東大卒とエンジニアを集めたチームに「あとよろしく」と言っておけば、彼らが自身でチームに合う属性の人を集めてくる。人事がピラミッド型にぜんぶ決めると、自主性がなくなり、みんな大手の色になってしまうから。多様性の意味がなくなるんだよね。
桜 面白いですよね。自然な状態なのにビジネスが生まれる、という組織の設定が。
亀山 それぞれの部門が自立しているってことです。グループ全体の憲法は「金を盗むな」と「詐欺をするな」のふたつだけ。あとはそれぞれ。始業時間と挨拶の有り無しは各会社で決定し、服装なんかも営業系はスーツ、エンジニア系はTシャツ・短パンオッケー、外国チームはタトゥーもお祈りもオッケー、でも宗教対立はダメとか(笑)、それくらい。
桜 本当にダイバーシティですね。
ジャズのビックバンドみたいな組織
亀山 あとは、最近はM&Aも多くなっているから、スタートアップで10人ぐらいの会社を買ったときは、もともとの文化のままでいてもらう。法務や財務的なチェックだけは定期的に入るけれど、経営方針は好きでいい。
そうしないと、せっかくイキのいいベンチャーを買収しても、会社の持ち味がなくなって、みんな辞めてしまう。人がいなくなって箱しかなくなった、というのは本末転倒だから。会社ごとにルールを好きにやらせないといけない。
桜 オーケストラというよりはジャズのビッグバンドみたいですね。指揮者はいません、みたいな。
亀山 確かにジャズのほうが近いかもしれないね。結構みんなアドリブでやっちゃうから。暴走するドラマーもいれば、トランペッターがいなくなったりするわけよ(笑)。でも、暴走するくらいがいいんだ、従順な奴よりも。
やはり組織は、大きくなるほど重くて遅くなる。時間が経つと硬直化してくるから、そこを変えていくよりも、トップが別個に会社をつくって、若手に好きにやらせたほうがいい。
で、年寄りが集まって硬直化した組織は勝手に衰退してもらう、と。要するに、“DMM.若手”に儲けてもらって、衰退していく“DMM.老人”にちょっと送金してもらう。昔は世話になったんだからね。
桜 “DMM.老人”って!(笑) せめて“DMM.ドットシルバー”とかにしてください。
亀山敬司(かめやま・けいし)
DMM.com会長。1961年、石川県生まれ。実家が呉服店、カメラ店、うどん店、キャバレーなどを営んでおり、自然と商売に関心が向く。80年代後半よりレンタルビデオ店を開業。
90年、アダルトビデオの版権ビジネスを行うため、北都を創業。98年より配信事業を開始。2009年、FX事業への参入を皮切りに、太陽光発電、オンラインゲームなどさまざまな分野に進出。事業計画を持ち込んだ起業家と契約を結んで資金と人材を提供する「亀チョク」を導入し、オンライン英会話(DMM英会話)、3Dプリント(DMM.make)、オンラインゲーム「艦隊これくしょん」などの事業を始める。16年にアフリカでの新事業をスタート。同年、持株会社制に移行しグループの会長に就任。17年、DMMアカデミーを開始。
(文/堀 香織)
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