akane
2018/09/01
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2018/09/01
高橋昌一郎『反オカルト論』(光文社新書)2016年
書評の連載第1回で自著を紹介するとは、おこがましい限りであることを十分承知している。しかし、『反オカルト論』には、現代人が「思考力を鍛える」ために私が必要だと考える「批判的思考法」の基本理念がすべて含まれている。というわけで、あえて拙著を最初に取り上げたことを、ご容赦いただければ幸いである。
本書は、次のような8項目にわたる現代人の「オカルト傾向」を指摘している。
1. いとも簡単に騙される。
2. 非現実的な話を妄信する。
3. 罪悪感なく不正を行う。
4. 自己正当化して自己欺瞞に陥る。
5. 明白にバレる嘘をつく。
6. 非論理的な因習に拘る。
7. 自力でなく運に任せる。
8. 非科学的な迷信に縛られる。
まず読者に冷静に判断していただきたいのだが、ご自身には何項目が当てはまるだろうか。次に各界有名人には何項目が当てはまるのか、採点していただくのも一興かもしれない。たとえば、安倍晋三総理大臣と安倍昭恵夫人、稲田朋美議員と杉田水脈議員、あるいは世間を騒がせる官僚や教育者、テレビのコメンテーターやお笑い芸人などはどうだろう。
3項目以上が当てはまれば「オカルト傾向が強い人」、5項目以上ならば「オカルト主義者」と呼んで差支えないと思う。逆に言えば、「騙されない・妄信しない・不正を行わない・自己欺瞞に陥らない・嘘をつかない・因習に拘らない・運に任せない・迷信に縛られない」人こそが、自分自身の力で考え、状況を客観的に分析し、物事を道徳的に判断できる「反オカルト主義者」と言えるだろう。
本書で扱ったテーマは、スピリチュアリズム、星占い、六曜、十干十二支、江戸しぐさ、生まれ変わりなど、多岐にわたる。とくにスピリチュアリズムの創始者であるマーガレット・フォックスが恋人の医師エリシャ・ケインの勧めによって「降霊詐欺」を自白した事件については、第一次資料から詳細に分析してある。
本書の内容は、2014年から2016年にかけて『週刊新潮』に連載したコラム「反オカルト論」(全66回)を再構成したものである。連載当時に話題になっていた理化学研究所研究員の小保方晴子氏による「STAP細胞研究不正事件」、東京大学教授の矢作直樹氏による「人は死なない」、産婦人科医師の池川明氏による「胎内記憶」といったオカルトも詳細に検討してある。
あの理性的な名探偵シャーロック・ホームズを生み出した医師コナン・ドイルでさえ、愛する長男の死をきっかけにオカルトに没頭し、財産の大部分を騙し取られてしまった。著名な財界人や文化人、高学歴なノーベル賞受賞者や科学者でさえ、オカルトにハマる最大の理由は、彼らが自分の専門分野で大成功したからこそ「過信」に陥った結果に他ならない。
しかも高学歴であればあるほど、いったんオカルトを信じ込むと、自分の知性や権力を総動員して「妄信」を弁護しようとするため、さらに自分が間違っていることを自覚できなくなる。この結果がどれほど恐ろしい害悪を社会にもたらすかについては、「オウム真理教事件」を思い起こせば明らかだろう。
本書が批判する「オカルト」は、単に「神秘」に対する妄信というばかりでなく、一般大衆を愚弄する思いあがった傲慢な態度といえる。とくに悪質なのが、「がんや難病を治す」「恋愛や金銭の願望を成就する」「超能力や予知能力を開発する」といった大言壮語を振りまいて信者を獲得し、閉鎖的な集団に引き込んで洗脳し、徹底的に搾取して彼らの人生を破壊するような悪質なカルト集団である。(P.299)
現代人の「思考力を鍛える」ために『反オカルト論』は必読である!
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