akane
2019/10/23
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2019/10/23
みなさん、こんにちは。前回は新型アレルギーについての処方箋をお出ししましたね。本日はお子さんのいる読者の方は必見、小児期のアレルギーについてのお話です。
これまで、アレルギーと皮膚にはなんらかの関係性があるということは我々皮膚科医の間でも通説でした。例えば、アトピー性皮膚炎を持つ子は将来食物アレルギーが出やすかったり、逆に食物アレルギーを多く持つ人は肌荒れしやすい傾向にあったり…。
これを「アレルギーマーチ」と呼ぶのですが、なぜこれが起こるのかの明確な理由はわかっていませんでした。
しかし、昨今、これらの関係性がある研究によって解明。今回はこの研究内容をベースにお話していきたいと思います。
ある研究者がピーナッツアレルギーに関するこんな実験を行ないました。
(A)離乳期からピーナツが含まれているおやつをよく食べるイスラエルの子どもたち
(B)離乳期からピーナッツを含む食品を避ける傾向にあるイギリスの子どもたち
上記の(A)と(B)それぞれにピーナッツアレルギー検査をしたところ、ピーナッツを避ける傾向にある(B)の子どものほうが、ピーナッツをよく食べていた(A)の子どもよりも、ピーナッツアレルギーを持つ割合が高いという結果が出たのです。
さらに、詳しく調べたところ、イギリスの子どもたちは、おむつかぶれなどで肌が荒れているとき、ピーナッツオイルを含んだベビーオイル(クリーム)を使用していたことも判明。
イギリスの子どもはアレルギーを発症させないためにピーナッツを避けていたはずなのに、なぜこのようなことが起こったのでしょう? この理由を説明する前に、まずは“皮膚と腸の免疫”についての説明をしていきます。
腸も皮膚もそれぞれ外的刺激から体を守るための免疫が備わっています。皮膚には、バリア機能があり、例え細菌がついたとしても、正常な反応であれば体の中に入らないようにと免疫が働きます。
しかし、皮膚に傷がついていた場合は別。バリア機能が低下していることから、感染やアレルギーなどの症状が現れます。皮膚は体の最前線にあるため、アレルゲンの影響を受けやすい部分でもあるのです。
今度は腸の話に移りましょう。極端な例になりますが、すべての食べ物にアレルギーがあったら、食べられるものがなくなってしまいますよね。栄養も偏りますし、いちいちアナフィラキシーショックのような反応を起こしていたら生きていけない。そのため、腸は「免疫寛容」という機能を備えています。
免疫寛容とは、「これは異物だけど、異物とみなさないように」と体が受け入れ態勢を作る機能のこと。口から入って消化するものに対して、「免疫」が「寛容」になるのです。当然、免疫が異物ではないと認識すれば、アレルギー反応は起こりません。
先ほどお話したピーナッツアレルギーの実験は、この免疫寛容がキーワード。日常的にピーナッツを食べていたイスラエルの子どもたちには、この免疫寛容が働いていたことになります。対して、イギリスの子どもたちは、バリア機能が低下していた肌へピーナッツオイルが触れたため、皮膚から少しずつアレルゲン成分が入り、アレルギー反応が起こったと考えられます。これを「経皮感作」と呼びます。
ピーナッツを食べていなかったのに、ピーナッツオイルを使っていたら、アレルギーが発症した…。皮膚からアレルゲン物質が入って食物アレルギーが発症することがわかり、さらに完全除去が主流だった過去の定説が腸の免疫寛容の証明によって覆されたのです。
まとめると、下記の2つが食物アレルギーの新事実です。
1、アレルギーの原因となる食べ物を完全除去するのではなく、アレルゲンの元となる食べ物を少量ずつ食べたほうがアレルギーは起きにくい
2、口ではなく最初に皮膚にアレルゲン物質が触れることで、アレルギーが発症するリスクがある
現在では、離乳食を始める時期は5~6ヶ月ごろからというのが通説です。もちろん、アレルギーがあるから全員に当てはまるわけではありませんが、アレルギーの症状や数値を見ながら少しずつ食べさせて負荷を与え、慣れさせていくことが現在のアレルギー治療の主流となっています。
これを「経口感作療法」と呼び、特に三大アレルギーといわれる「小麦」「卵」「乳製品」は、この両方で少しずつ体に慣れさせ免疫寛容を獲得させたほうがいいとされています。アレルギーの原因となる食物を完全除去するよりも、少量ずつ食べたほうがアレルギーは起きにくいのです。
中には「先にアレルギーがあるかどうか調べてから与えたいのですが…」と怖がる方もいらっしゃるかもしれませんね。しかし、おもしろいことにアレルギーは数値が高かったとしても、症状が出るかどうかは食べてみないとわからないのです。逆にいうと、少しずつ食べ慣らしていき、腸に免疫寛容を獲得させれば、アレルギーの数値はだんだん下がっていきます。
じつは、私の娘も牛乳アレルギーがあります。専門医と相談しながら経口感作療法を行い、1ccからはじめ、3cc、5cc…と量を少しずつ増やしていきました。どれくらい飲めるのかを確かめていき、今では30ccまで飲めるようになりました。
今はこの経口感作療法が主流です。もしかしたら5年後、10年後にはまた新しい研究結果が出ているかもしれないですが、今のスタンダードでいえば、完全除去はおすすめできないといえるでしょう。
皮膚からのコンタクト、つまり経皮感作を防ぐという観点からみると、小児期のスキンケアもとても大切になってきます。もし湿疹が出ているなど、お子さんの肌に異常があったら、まずはそれを迅速に治しましょう。
特に、乳児湿疹などで肌が弱っているときは注意が必要です。空気浮遊している小麦や卵のアレルゲンを感知してしまった場合は皮膚の免疫機構が先走って異物だと判断し、アレルギーが起こる可能性があります。
小児期は皮膚を清潔に保ち、アレルゲンの元となる食べ物とのファーストコンタクトは、腸がベストと心得る。少しずつ与えることで、免疫寛容を獲得していけるのです。子育て中の方、これから子育てをする方は、適切な時期に適切な量の食べ物を与え、肌を正常な状態に保つことを心がけてくださいね。
子どもだけではなく、おとなでもこの例が当てはまります。じつは、主婦の方でも手湿疹が多いほうがアレルギーを起こす可能性が高いという研究結果も出ているのです。
子どもと同様、手湿疹が出ているということは肌のバリア機能が低下している証拠。このときにアレルギーの元となるものと接触していると、そこからアレルゲンが入ってきてしまい、やはり反応が出やすくなってしまいます。
さまざまものに接触する機会が多い手だからこそ、湿疹やかぶれ、傷ができたら絶対に放置しない。アレルゲンはどのタイミングで入ってくるかわかりません。あまりにひどいときは、治るまで手袋をはめて水仕事をするなどしてください。
今回は最新の研究結果からアレルギーの新事実についての処方箋をお出ししました。本日お話したことをぜひ、日々の生活に役立ててくださいね。
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