未来のために古典から学べ!声優・羽佐間道夫の教え(#7)著:大野裕之
大野裕之『創声記-日本を話芸で支える声優たち-』

スター声優たちの肉声から声優の歴史に迫る「創声記」インタビュー。近年は群読や朗読劇など「アテレコ」ではない声の仕事にも積極的な羽佐間さん。平家物語や泉鏡花、チャップリン・小津安二郎といった古典・クラシックを蘇らせることで得られる「声優としてのチャンス」とは? 聞き手は脚本家・映画研究家の大野裕之さん。いよいよ最終回です!

 

 

古典が教えてくれること

 

ーー最近、「平家物語」の群読や泉鏡花の朗読劇など、アテレコではない、声のお仕事もたくさんなさっていますね。

 

羽佐間 「平家物語」は、自分たちのプロダクションに、若いのが集まってきたので、声を作るために古典の群読をしようと思ったんです。発声の基礎には、非常に適してる。一人一人だと聴けるけど、群読になると母音をしっかりしないと聞こえない。今の声優に足りない部分です。若い人たちが訓練していくうちに、だんだん口が開いていく、その稽古の過程が面白いんですよ。それは僕にとってもプラスになります。
広島の宮島でやりましたけど、建礼門院が飛び込むところで、急に土砂降りになったり、不思議なことも起きました。声の力ですかね。
泉鏡花の怪談の朗読劇は、朴璐美と一緒にプロデュースしました。彼女はすごい芝居が好きなの。神楽坂の音のいい小さな劇場で、泉鏡花ゆかりの場所にこだわってやりましたね。僕は朴の演出が好きだね。

 

ーーあの公演を拝見したとき、やっぱり、声優さんっていうのは、声のアクション俳優なんだなと思いましたね。声の表情と迫力に圧倒されました。

 

羽佐間 ありがとうございます。

 

ーー実は、羽佐間道夫さんと私との出会いは「声優口演」です。サイレント映画は、「弁士」が画面にあわせて説明しながら上映されることが多かったのですが、サイレント映画に声優がライブで声をあてるというプロジェクトで、近年大人気のイベントになっています。

 

羽佐間 昔、福地吾郎さんがNHKでサイレント映画の弁士をして、それが素晴らしかったのね。「活弁やるんだったら、ああいうふうになりたいなぁ」と常々思っていました。そのうち、声優ならではのことをできないかと思い始めて、もっと登場人物になりきって、人物を立体化すると面白くなるんじゃないかと思ったんですね。
そんな時に、チャップリンの短編作品に声優が声を当てられないかと、大野さんに相談した。

 

ーーー正直なところ、最初は、チャップリンは身体の動きだけで面白いのだから、別に声をつけなくてもいいじゃないかと思いました。でも、いざ口演すると、サントリーホールが1500人のお客さんの笑い声で揺れたんです。今までチャップリンを見たことのなかった高校生が「初めて見たけど、チャップリン面白かった」と言ってる。これはすごいことだと思いました。世界の身体芸と日本の話芸の究極のコラボ。クラシック映画を蘇らせて若い世代に伝える素晴らしいイベントです。

 

羽佐間 あれは、僕は声が出る限り続けていきたいと思ってます。やはり、チャップリンの作品は、いい声優がやらないと。アニメと違って、画面のチャップリンの演技が教えてくれる。だから、すごく技術が必要です。
深夜のアニメなんか見てると、全部同じに聞こえちゃうんだよね。個性がない。昔の映画の吹き替えは、本当に一人一人声が違う。だから、アニメの若い声優も「声優口演」に参加したいと言ってくれます。
2015年には小津安二郎のサイレント映画にも挑戦したし、今後はヒッチコックのサイレント映画なんかにもトライしたいね。

 

 

声優には「変われるチャンス」がたくさんある

 

ーーところで、声優をしててよかったと思うのは、どんなことでしょうか。

 

羽佐間 どうかな。あのね、顔が分からないっていうのはいいですね。

 

ーーお顔は十分有名ですよ(笑)。

 

羽佐間 ジェットストリームの城達也と喋ってたんだけどね、「なぁ、俺たちいいよな」って、酔っ払って、二人で電信柱におしっこひっかけてさ、「こうやっても誰も分かんないもんなぁ。高倉健がここでおしっこしてたら、大変だぞ」って。だから、そういう意味では自由でいいですね。

 

ーー声優になってよかった点はそれだけですか(笑)。

 

羽佐間 いやいや(笑)、あとやっぱり、「変われるチャンス」がたくさんあるところかな。例えば、舞台で十八番ができてしまうと、その人の芝居はそこで止まっちゃう。あんまり進歩しないんだよ。吹き替えの声優は、画面にうつるもともとの俳優を手本にいろんな人に変われる。ディーン・マーティンのフッと振り返るときの間とか、本当に面白い。チャップリンなんかは、本当に演技指導してくれる先生です。

 

ーーじゃあ、声優のお師匠さんは画面の、映画のいろんなスターさんなんですね。

 

羽佐間 まさにそうですね。それから、寄席のアルバイト先で聞き続けた落語の間合い。例えば、「五人廻し」でも志ん生、圓生、それぞれ違う。単なる声色の違いじゃない。声を聞いただけで、心はもちろんその人物の価値観まで伝わって来る。徳川夢声さんの芸も越路大夫師匠もそうです。何かをやる必要はなくて、「心が変化すればついてくるんですわ」とおっしゃってました。声色は同じでも、ちょっとした違いで人物が浮かび上がる。日本には日本の表現方法があって、それはやっぱり古典だなと、つくづく思います。それから、心が整わなければ、どんなに作っても、人に伝わっていかないんです。

 

羽佐間道夫(はざま・みちお)
1933年生。舞台芸術学院卒。劇団中芸を経て、『ホパロング・キャシディ』で声優デビュー。以来、声優の草分けの一人として数多くの名演を披露。代表作に、シルヴェスター・スタローンを吹き替えた『ロッキー』シリーズほか、チャールズ・チャップリンの『ライムライト』、ディーン・マーティン、ポール・ニューマン、ピーター・セラーズ、アル・パチーノの吹き替えなど多数。2008年、第2回声優アワード功労賞受賞。

 

創声記_羽佐間道夫編

著:大野裕之

脚本家・日本チャップリン協会会長
チャップリン家の信頼もあつく、国内外のチャップリン公式版Blu-rayを監修。羽佐間道夫氏発案の「声優口演ライブ」の台本を担当する。著書『チャップリンとヒトラー』(岩波書店)で2015年第37回サントリー学芸賞受賞。映画脚本家としては、2014年『太秦ライムライト』で第18回ファンタジア国際映画祭最優秀作品賞受賞。

写真= 髙橋智英/光文社
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