たまには雑な晩酌も……
酒場ライター・パリッコのつつまし酒

チョコレートケーキとコーヒーの焼酎割り

 

久しぶりに夜遅くまで仕事をしてヘロッヘロになりました。
その日は通常通り午前中から仕事を開始し、夕方には酒場取材に出なければいけなかった。その前までにどうしても、プリントアウトされた自分が書いた大量の原稿をチェックし、赤入れという作業をして、とある出版社へ発送しておく必要があった。しかしながらこれが終わらない。自分が書いた原稿を再度読まされるのって、僕の場合、「これ、一体どこがおもしろいの?」との戦いとなり、けっこう精神的にくる作業なんですよね。やたらと時間がかかる。あえなく出かけなければいけない時間がやってきて、都内の2軒の酒場を回って取材を終わらせました。
時刻は午後9時。編集さんと相談し、赤入れ原稿は、直接出版社まで行って、夜のうちに守衛さんに預ければいいという手筈になっています。そこで現地へ向かい、近くのファミレスに入る。脳に喝をと思い、珍しくというか、こういう店では人生初かもしれない「チョコレートケーキ」を頼む。それから、ドリンクバーも。いつものクセでついつい、焼酎のミニボトルとのセットを注文してしまったのですが、さっきの取材ですでにお酒は入ってるのでまぁいいか。コーヒーの薄い焼酎割りとケーキで脳にカフェインと糖分を送りつつ、仕事を開始します。
編集さんには何時まででも大丈夫と言われているものの、終電というタイムリミットはある。なんとしてもそこだけは超えたくない。コカコーラの薄い焼酎割り、再びコーヒーの焼酎割りを摂取しつつ、黙々と作業を進めます。仕事っていうのはなんでいつもこう、ギリッギリに終わるんでしょうかね。全作業が完了し、大慌てで出版社へ届け、駅に着いたらちょうど終電。間に合えば何かつまみになるものでも頼んで祝杯をあげたかったのですが、それも叶わず。スピード晩酌(本連載第10回参照)の余裕すらもなく、なんとか地元駅まで戻ってくることができました。

 

今、無性にこれが食べたい

 

酒場取材でちょこちょこと料理の味見はさせてもらってたのですが、そこから時間が空いているので小腹は減っている。しかしながら、まだ営業しているのはチェーン店ばかりだし、そもそもどこで何を食べようなどと考える気力が残っていない。当然スーパーも閉まっている。ゾンビのような足取りで歩きだすと、もはや体に染み付いた行動といいますか、とりあえず「100円ローソン」、略して「100ロー」に寄っている自分に気がつきました。
正式名称「ローソンストア100」。100円ショップとコンビニのいいとこ取りの、ゆえに並んでいるお惣菜類などは一般的なコンビニよりは若干チープ感漂う、そこがなんとも愛らしい、街にひとつはあってほしい名店。扉を開けると目の前の棚の「今売れてます!」という文字が目に飛びこんでくる。へ~、今売れてるんだ。いいな。で、何が売れてるんだろう? と見る。そこにあったのは「かき揚げバーガー」なる惣菜パン。いわゆるハンバーガー用のバンズに、かき揚げが挟んである。ホットスナックのコーナーとかではなくて、常温の、袋にパッケージされた惣菜パンです。なのでもちろんかき揚げも、揚げたてとかではないし、見た感じペラっとしている。はは、なんだこりゃ。笑える。絶対に「うおー絶品!」とかではないと思う。だけどなんだか今、無性にこれが食べたい。こいつをメインに、店内をひと回りして本能のままにサイドメニューを選び、帰ってそれらを温めもせずつまみにする「雑な晩酌」が、なんだか今日の気分だ。よし、楽しくなってきたぞ!

 

あえて温めないという選択

 

家に着き、薄暗い部屋で買ってきたものをテーブルに並べます。まずはかき揚げバーガー。それから、プライベートブランド「バリューライン」のオリジナル商品「お肉屋さんのハンバーグ チーズ」。レトルトパウチ食品の、要するに冷えきったハンバーグですね。それから、200円が30円引きだった「よくばりサラダ」。100ローといえば、タカラ「焼酎ハイボール」が常に種類豊富に売られているのも嬉しすぎるポイント。もはや100ローの存在意義とすらいえるかもしれない。中でも、ちょっと子供っぽくて(?)お恥ずかしいんですが、特に「ラムネ味」が好きなんですよね~。そりゃあ僕だって「ドライ派です」なんて言いたい。けれども、甘ったるくはないんだけどふわりとラムネの風味が爽やかなあいつを、あるとどうしても選んでしまう。特に今夜のような雑な晩酌にはぴったりな気がして、500mlを1本。
ではでは、満を持して、あえて常温のかき揚げバーガーにむしゃりとかぶりつきます。パッケージに「天丼のタレで味つけした野菜かき揚げをサンド」と書いてありますが、驚くほどにそのとおりの味。甘く濃いタレと油の味。若干パサつくパンに口中の水分を持っていかれ、そこにラムネチューハイを流しこむと、「そうそう、今求めてたのこれ!」って感じで、めちゃくちゃしっくりくる。
仕切りなど存在しない透明なプラスチック容器に千切りキャベツが敷かれ、その上に小さくポテトサラダ、マカロニサラダ、そして細く切られた赤と黄のパプリカが1本ずつ乗る欲張りサラダ。パプリカの「できる範囲ではありますが、なんとか彩りも感じていただきたくて……」という存在感に涙が出てきます。付属の「しょうゆごまドレッシング」がまたシンプルな味で、キャベツの食物繊維感を引き立てる。ポテサラもマカサラも、想像通りの味で缶チューハイとマッチ。
僕、レトルトパウチの冷えたハンバーグをそのままつまみにするの、意外と好きなんですよ。あれはむしろ、温めないほうが真価を発揮するんじゃかいかと思ってるくらい。中でも、別にあれこれ食べ比べたわけではないのですが、バリューラインのハンバーグは妙にうまい気がする。以前何気なく似たような商品を買ったら、「これじゃない」感がすごかったんですよね。これまた雑な晩酌にはもってこいのおつまみなので、もしよかったら試してみてください。

酒場ライター・パリッコのつつまし酒

パリッコ

DJ・トラックメイカー/漫画家・イラストレーター/居酒屋ライター/他
1978年東京生まれ。1990年代後半より音楽活動を開始。酒好きが高じ、現在はお酒と酒場関連の文章を多数執筆。「若手飲酒シーンの旗手」として、2018年に『酒の穴』(シカク出版)、『晩酌百景』(シンコーミュージック)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)と3冊の飲酒関連書籍をドロップ!
Twitter @paricco
最新情報 → http://urx.blue/Bk1g
 
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