メキシコ人は1人もいない?米国への不法入国者はほぼ全て「あの国」からだった!
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不法入国者の支援施設に来た。不法移民の中にメキシコ人がいるかどうかを確認したが、1人もいなかった。不法入国者といえばメキシコ人が最初に思い浮かぶのは、トランプが大統領選期間中から連呼してきたせいだろう。

 

近年の米国への不法入国者は、そのほぼ全てが、グアテマラ、ホンジュラス、エルサルバドルの中米3か国からだ。メキシコ人は不法入国よりも、米国内での不法滞在が圧倒的に多い。ずっと前に不法入国して居続けるケースもあれば、ビザなどで正規に入国後、滞在超過(オーバーステイ)となっているケースもある。

 

いずれにせよ、国境を越えた後で確信犯的に出頭してくる不法入国者はほぼ全て、中米3か国の出身者だ。メキシコ人はまず、いない。

 

 

なぜか。シスターのノルマに尋ねると、「日常的に行き来しているメキシコ人がいるわけですが、彼らはこっそり入ってこっそり帰ります。もし当局に見つかったら、すぐに強制送還されます。米国と国境を接していないため強制送還に手間のかかる中米3か国の出身者と違い、メキシコ人の場合は国境から追い出せばいいだけですから」と答えが返ってきた。

 

中米3か国の人々はなぜ今、米国を目指すのか。

 

ノルマはため息をついて言った。

 

「貧困と暴力からの脱出です。特に暴力は深刻です。麻薬密売などの犯罪組織が一般人に犯罪の手伝いをさせようとするのです。政府の統治が及ばないどころか、政府と犯罪組織は癒着しているという話もある。ギャングが国民の一部を支配していると言える、ひどい状態です」

 

不法移民の支援施設を運営するシスターのノルマ・ピメンテル

 

笑い声が聞こえた。振り返ると、無償提供の衣類が置かれた場所でアントニオが息子の背中にTシャツを合わせ、はしゃいでいた。どこにでも居そうな仲の良い父子にしか見えないが、エルサルバドルにいたらこんな場面が訪れることもなかっただろう。「不法移民の排斥を唱えるトランプのせいで拘束されても、命を失うよりはマシだ」。アントニオはそう繰り返した。

 

母国を離れなければならないのはつらいことだ。トランプは世界の大国・米国の大統領として、中米3か国の治安改善にもっと力を貸すべきではないか。そうすればアントニオのような不法入国者も減るだろう。しかし、米国や自分の得にならないことに対し、トランプが積極的に取り組むはずがないことは誰もが知っている。

 

ギャングの暴力から逃れるためにエルサルバドルから米国へ、息子と不法入国したアントニオ

 

 

この記事は『ルポ 不法移民とトランプの闘い』(光文社新書)より一部を抜粋、再構成してお届けしました。

 

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