影響を与えたのはパリ画壇だけじゃない! 無理な構図は元祖キュビズム!? 春画にまつわる素朴な疑問その6
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「春画」と言えば、着物を半分まといながらのアクロバティックなくんずほぐれつ、誇張された巨大な性器…といったものがまず思い浮かびます。春画に特有なこれらの描写、実はそれぞれに深い意味合いがあるのをご存じですか?
『[カラー版]春画四十八手』(知恵の森文庫)の著者で江戸文化にも詳しい車浮代さん(http://kurumaukiyo.com/)が、同書刊行を記念し、より深く鑑賞するために知っておきたい「春画にまつわる素朴な疑問」にお答えします。
奥深い春画の世界、“知ってから見る”とまた違う地平が広がります。

 

葛飾北斎 『喜能会之故真通』

 

Q6. 春画がピカソやロダンに影響を与えたって本当ですか?

 

葛飾北斎の『北斎漫画』を始め、歌麿の美人画や広重の風景画などが、パリ画壇でくすぶっていた若き画家たち(マネ、ドガ、セザンヌ、モネ、ルノワール、ゴッホ、ロートレックなど)に刺激を与え、印象派やポスト印象派の誕生につながったことは、ご存知の方も多いと思います。

 

ところが近年、当時秘密裏に売買されていた春画も、大量にヨーロッパに流出し、印象派の画家たちだけでなく、『考える人』で有名な彫刻家のロダンや、キュビズムの代表格であるピカソなど、大物アーティストの作品に影響を与えたことが、明らかになってきております。

 

ルネサンス期以降、ヨーロッパの画家たちは、タブーとされてきた裸婦像を、美の女神・ビーナスに例えるなどして、恐る恐る描くようになっておりました。1800年には、ゴヤの『裸のマハ』が、画壇で賛否両論の物議を醸しました。ゴヤ以降も、欧州の多くの画家たちは「横たわる裸婦」という画題を、バッシングを受ける覚悟で手がけておりました。

 

そのような風潮の中、大きくデフォルメされた性器を見せつけるようにして性交する男女を描いた日本の春画が、彼らに与えた衝撃の大きさは計り知れません。タブーなどどこ吹く風、といった奔放なシチュエーションが、極彩色で、しかも圧巻の木版画技術で表現されていたのでございます。

 

最初は度肝を抜かれたヨーロッパの人々も、その大胆さを面白がり、こっそり収集するようになりました。浮世絵と同じく、多くの春画が海を渡ったのでございます。

 

バルセロナ世界美術博物館のキュレーターで、2009年に『秘画—ピカソと日本の春画』展を成功させた、リカル・ブル氏の著書『エロティック・ジャポニスム:西洋美術における日本の性的画像の影響』(邦題)には、ロダンが春画に触発され、性交中の男女を描いた多くの素描や、彫刻作品を制作し始めたことや(教え子であり、天才女流彫刻家のカミーユ・クローデルとの不倫が始まったのもこの頃のことでございます)、ピカソが北斎の『海女と蛸』を模写し、オマージュとも言える、コミカルなドローイング作品を描いたことなどが述べられています。

 

前述しました『秘められたイメージ:ピカソと春画』では、ピカソの様々なエロティック・アート作品と、元になったと推測される、ピカソが収集した春画を、比較展示するという試みがなされました。その際、顔と性器を同時に見せる無理な構図から、ピカソがキュビズム表現を思いついた可能性がある、と解説されていたそうです。

 

もしこれが本当だとしたら、影響を与えたどころではございません。浮世絵だけでなく、春画もまた、世界の美術史を大きく変えた、ということになります。

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