コミカルでエロティクな呪文「江戸かな」を解読すると……春画にまつわる素朴な疑問その8
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「春画」と言えば、着物を半分まといながらのアクロバティックなくんずほぐれつ、誇張された巨大な性器…といったものがまず思い浮かびます。春画に特有なこれらの描写、実はそれぞれに深い意味合いがあるのをご存じですか?
『[カラー版]春画四十八手』(知恵の森文庫)の著者で江戸文化にも詳しい車浮代さん(http://kurumaukiyo.com/)が、同書刊行を記念し、より深く鑑賞するために知っておきたい「春画にまつわる素朴な疑問」にお答えします。
奥深い春画の世界、“知ってから見る”とまた違う地平が広がります。

 

喜多川歌麿『ねがひの糸口』

 

Q8.春画に書かれている文字を、読むことはできますか?

 

春画に書かれております、漢字を略した文字(「変体仮名」「江戸かな」「くずし字」などと呼ばれる)は、少し勉強すれば、何が書いてあるのかがわかるレベルには読めるようになります。……と申しますのは、頻繁に使われる文字は、限られているからでございます。

 

ご承知の通り、平仮名も同様に漢字を崩した(簡略化した)文字でございます。「いろは四十八文字」には含まれている「ゐ」=「い」、「ゑ」=「え」と読めますように、登場頻度の高い基本の八文字を覚えれば70%程度、次に頻度の高いプラス八文字の合計十六文字を覚えれば、なんと90%程度を読むことが可能なのでございます。

 

この、基本八文字(は・た・か・に・は・け・す・れ《裸には毛擦れ》)と、プラス八文字(を・す・き・は・つ・の・ぼ・り《お好き初登り》)をピックアップし、春画を読むのにぴったりな、コミカルでエロティックな呪文を作られたのは、古文書研究家の吉田豊先生。私に「江戸かな」を読むきっかけを与えてくださった先生でもあります。

 

詳細は、吉田先生との共著『春画で学ぶ江戸かな入門』(幻冬舎刊)をご覧いただければ幸いでございますが、この十六文字を記号と考え、パズルのように当てはめて解読してゆく作業は、なかなかに楽しいものでございました。最初は時間がかかりましたが、あまり間を置かずにコツコツやれば、どんどん読む速度が早くなって参ります。

 

そもそも、春画の文字を読むというのは、他の書物を読むのに比べて「江戸かな」が学びやすいということにも気づきました。理由としましては、

一. 図案のヒントがあること
二. ほとんどがワンシチュエーションで完結しており、短文であること
三. 性に関する記述が興味を引く上に、おおよその見当がつくこと
四. 踊り字(繰り返し記号)やオノマトペが多いこと

などが挙げられます。

 

以前、くずし字が読めるという年配の方々に、なぜ読めるのかを尋ねると、「家にあった春画を読みたい一心で勉強した」というお返事をいただくことが多ございました。興味や執着というものは、記憶力に大きく作用致します。読みたいという欲求があれば、読めるようになるのでございます。

 

今や我が国で、くずし字を読める人口は一万人を切り、江戸時代に書かれた膨大な書物の、実に99.9%が未解読のまま捨て置かれているのだそうでございます。もし春画がきっかけで「江戸かな」が読める人が増えれば、歴史的新発見につながる可能性は、とても高いと申せます。

 

お時間と興味のある方は、是非チャレンジしてみてくださいませ。

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