涙ばかりでもない、リアルな家族の看取り『有村家のその日まで』尾崎英子
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昨夏、実母を亡くしました。それまで病気一つしたことがない母だったので、ステージ4の癌(がん)が見つかったと知らされた時には、たしかに寝耳に水ではあったものの、妙に冷静に受け止めたように思う。いつも斜め上を行く母だったので、今度はそう来たか、という感じだった。

 

告知から一年足らずで、母は天寿をまっとうした。アクセル全開で突っ込んでいったような印象です。百歳くらいまで生きるだろうと思っていたのに、享年六十九とは今の世だと「まだお若いのに……」と惜しまれるくらいでしょう。人の命なんてわからないというのは、手垢(てあか)だらけの感慨だけどそのとおりだな。親の死をもって、その真意を知らしめられた。

 

新作『有村(ありむら)家のその日まで』は、そうした母の看取りの経験を下敷きにした物語です。あくまでも「有村家」という家族のお話でありつつも、いろんな場面に「尾崎家」も詰め込まれている。

 

たとえば有村家の母・仁子(じんこ)のモデルとなる私の母も、仁子さんと同じく、途中から標準治療をやめて代替療法にはまり、実家には毎日宅配便が届くようになった。

 

すごい乳酸菌やヨード系のドリンクや波動の高いクリームなどが、じゃんじゃか配達されるのです。iPad一つで物が購入できてしまう便利なシステムの弊害とでも言うべきか。

 

母の病気が快方に向かってほしいと願いながらも、サプリメント代だけで月に数十万円が引き落とされると、no more 代替療法! と言いたくなったものでした。

 

こういう当事者たちにしてみれば悲劇だけど、少し引いてみると喜劇みたいな“家族の死”というのは、誰の身にも起こりうることなのかもしれない。涙ばかりの母親の死の話ではなく、こんな家族がいるのかと笑ってもらえると嬉しい。

 

自らの経験を重ね合わせた方の、何かしらの救いになれば、なおのこと。多くの人の心に届くものでありますようにと願っております

 

 

『有村家のその日まで』
本体1700円+税

 

 

イラストレーターの有村文子は、母の仁子ががんであることを知らされる。自由奔放な仁子は、スピリチュアルに傾倒し、標準治療を「つまらないから」とやめ、すごい乳酸菌と拝み屋の力で乗り切ろうとするが……母らしい最期を迎えられるよう奮闘する、ある家族の物語。

 

PROFILE
おざき・えいこ 1978年、大阪府生まれ。早稲田大学教育学部国語国文学科卒。2013年『小さいおじさん』で第15回ボイルドエッグズ新人賞を受賞しデビュー。近著に『くらげホテル』がある。

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