触手への挑戦『不老虫』石持浅海
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官能の世界には「触手もの」というジャンルが存在する。ぐねぐねと動く紐状のものが女性を襲うという内容だ。

 

僕は、このジャンルが好きではない。元々女性が自由を奪われ襲われるシーンが好きではないし、まったく違う理(ことわり)で生きている生命体がなぜ人間に性的に興奮するのか、理解できないからだ。

 

だからずっと敬遠していたのだけれど、あるとき、ふと考えた。触手から性的な要素を取り去ってしまえば、いったいどんな物語になるのだろう。

 

現実世界にルールをひとつだけ追加するというのは、僕がよく使う手段だ。けれど加えるルールが触手という荒唐無稽なものだと、常識的なキャラクターでは対応できない。負けず劣らず濃い設定が必要になる。

 

人間を襲う、謎の触手。

 

触手に立ち向かう、特殊能力を持った美女。

 

相棒の猫。

 

魔法使いと、その弟子。

 

「もーっ」と言いながら兄の世話を焼く妹。

 

そういった、普段の僕なら決して出さないタイプのキャラクターを、触手が存在する世界に当てはめていった。

 

濃いキャラクターは、自身の個性が最も活(い)きるシーンを作家に要求してくる。ありがちとかベタと言われることを承知の上で、僕は彼らの希望を最大限かなえてあげることにした。着地は、今まで培った技術でなんとかなるだろう。

 

そうやって工夫した結果、どこかで見たようなキャラクターが、いかにもやりそうなことをやる物語ができあがった。では、これは平々凡々な話なのか?

 

それは、読んだ皆さんが判断してください。少なくとも、がっかりは、させません。

 

 

『不老虫(ふろうちゆう)』
石持浅海/著

 

不老虫ーー生息域が東南アジアのごく一部に限られ、眉唾ものの伝説のみが伝わっている。しかし、やつらには人類の脅威となる恐ろしい習性があった……。運命は美貌のハンターに委ねられた! 石持浅海が放つ飛びっきりの変化球に仰天せよ!!

 

PROFILE
いしもち・あさみ
1966年愛媛県生まれ。九州大学理学部卒。’97年、鮎川哲也編『本格推理11』に「暗い箱の中で」が初掲載。2002年『アイルランドの薔薇』でカッパ・ノベルスの「KAPPA-ONE」より本格デビュー。

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