akane
2019/05/31
akane
2019/05/31
エネルギーがなければ脳は機能しない。そこに深く関わっているのがインスリンである。
インスリンは通常の量が分泌されていれば、非常に有益な、というより、欠かせないホルモンである。
しかし、インスリンが過剰になったり、逆に十分な効果が果たせないと、様々な有害作用が起きるのである。
その代表的な状態が、インスリン抵抗性である。
脳に溜まる有毒なアミロイドβ(アルツハイマー病の原因とされる)を分解する酵素は、インスリンを分解する酵素でもある。
インスリンが多すぎると、その分解に精一杯となり、アミロイドβまで手が回らない。そうすると、アミロイドβはどんどん蓄積するのである。
また、インスリンやIGF(インスリン様成長因子)は、アミロイドβ前駆体タンパク質(前駆体とはその物質が生成する前の段階の物質のこと)の産生や輸送などに重要な役割があると考えられており、脳のインスリンおよびIGFの信号の伝達の障害は、アミロイドβ前駆体タンパク質の発現増加およびアミロイドβの増加をもたらす。
このため、アルツハイマー病は「3型糖尿病」とも言われている。
脳のインスリン値は、血液中よりもかなり高いと考えられている。
ということは、いまだ議論が続いているが、脳のインスリンはすい臓から分泌されたものだけではなく、脳でも産生されていると思われる。
インスリン産生は、神経細胞を支持・固定し栄養の供給などをするグリア細胞よりも神経細胞のほうが高く、特に嗅球(きゅうきゅう)、大脳皮質、扁桃体、海馬、視床下部および網膜において、より高いレベルのインスリンが確認されている。
脳のインスリン値が高いということは、脳においてインスリンは非常に重要な役割があり、神経細胞の構造や機能、生存に大きく関わっている可能性が非常に高いと思われる。
逆に言えば、インスリンの分泌低下や作用低下は、神経細胞に大きなダメージを与える可能性が高いのである。
つまり、脳のインスリン抵抗性は神経変性を起こす可能性が高くなる。
神経細胞は非常に高いエネルギー代謝を持ち、ミトコンドリアの活性も非常に高いと考えられ、ミトコンドリア機能不全により活性酸素が発生しやすくなる。インスリン抵抗性はこのミトコンドリア機能不全をもたらす。
また、通常に働くインスリンには神経保護作用があると考えられている。しかしインスリン抵抗性ではインスリンへの反応性が低下し、その保護作用が低下するのである。
インスリンを分泌させるのは、主に高血糖である。糖質を大量に摂取すると血糖値が上昇し、血糖値を下げるためにインスリンが大量に分泌されるのである。それが繰り返されると、インスリン抵抗性が起きてしまう可能性が高くなる。
また、高血糖自体も炎症を引き起こし悪影響を与える。インスリンがきちんと働けば、抗炎症効果が期待できるが、インスリン抵抗性ではその効果も低下する。
インスリンは微小循環血流を増加させ、組織の血液の流れが途絶える虚血を防ぐという作用もある。つまり、インスリンが有効に働かない場合の被害は甚大なのである。
糖尿病の患者に認知症の患者が多いのは、このようなことが脳で起きているからである。
さらに、日本人1000人以上の大規模な調査である久山町研究(1961年から九州大学が行っている福岡市の隣の久山町の住民を対象とした疫学調査)によれば、糖尿病があるとアルツハイマー病の危険性は2倍以上であることがわかった。
また、お米の摂取量が少ないほど認知症になりにくいという結果もある。お米は糖質の塊である。
また、経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)による検査で、2時間後の血糖値が120㎎/㎗未満の人と比較すると、血糖値が200㎎/㎗以上になった人ではアルツハイマー病の危険性が3倍以上になるという結果も出ている。
さらに、約4000人の中で、認知症になった人785人の空腹時血糖を、認知症と診断されたときの14年前までさかのぼって調べてみた研究では、認知症になっていない人よりもすでに高くなっていることが判明している。認知症は1年や2年で起きる病気ではない。10年や20年かかって初めて発症するのだ。
さらに、糖質の多い飲料の摂取量が1日1杯未満の人と比較し、摂取量が多い人ほど脳が小さくなったという研究まである。その飲み物がフルーツジュースでも、同じであったのである。
挙げればきりがない。アルツハイマー病が糖質過剰症候群の一つの病態であることを否定する方が難しい。
ただ、脳のインスリン抵抗性とそれ以外の臓器のインスリン抵抗性は、独立していると考えられる。糖尿病や肥満がないアルツハイマー病患者でも、死後の脳を調べるとインスリン抵抗性が起きていることが判明している。
だから、アルツハイマー病が糖尿病に併発することはもちろん多いが、糖尿病がなくても認知症になる。糖質過剰摂取をやめない限り、認知症の増加は止まらない。
日本の認知症の割合はOECD加盟国35か国中第1位なのである。日本の人口に対する認知症有病率は2・33%で、OECD平均の1・48%を大きく上回っている。
このように見てくると、お米崇拝文化に別れを告げるべきであるとわかってくる。主食という言葉を忘れなければならない。本来の人間の主な食材は、動物の肉や魚、採集した野草や野生の果実などだったのである。
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以上、『「糖質過剰」症候群――あらゆる病に共通する原因』(清水泰行著、光文社新書刊)から抜粋・引用して構成しました。
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