家族に決まった形なんてない!|窪美澄さん最新刊『ははのれんあい』
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2021/01/30

 

撮影/中林 香

 

欠落を抱えながらも人生を生き抜いていく等身大の人々の、生と性を描き続ける窪美澄さん。新作では「シングルファミリーだろうが離婚家庭だろうが、どんな形をしていても“家族”として間違っていないと伝えたかった」と語ります。体中を突き抜ける深い感動に包まれる一冊です。

 

家族とは有機的なもの。その形態が変わるのもよくあることだと思うんです

 

ははのれんあい
KADOKAWA

 

 窪美澄さんはデビュー以来、女性の生と性に寄り添い、ままならない人生を生き抜く姿を綴ってきました。新作『ははのれんあい』では「性」を封印し、女性の自立と家族の再生の物語を通して存分に「生」を描きます。

 

「この作品は新聞の朝刊に掲載された連載小説で、ご依頼時に“家族をテーマにしてほしい”と言われました。家族をテーマにするなら一代記にしよう、一人でも多くの方に届けたいので尖った言葉ではなく平易な言葉で書こう、新聞の読者には本を読まない方もいらっしゃるだろうからアダルトな要素は自主規制しようなどいろいろ考えました。さすがに早朝から性描写は抵抗がありますよね(笑)」

 

 窪さんは物語誕生の経緯を楽しそうに話します。

 

「一代記にしようと考えたのは若い読者にも読んでほしいと思ったから。というのも、最近、若い人から“親が離婚しているのがコンプレックス”と聞くことがよくあって。私の両親は離婚していますし、私も離婚経験者ですので気持ちはわからないでもないのですが、コンプレックスというのはちょっと違うんじゃないかと思うんです。両親がそろっているのが一般的と思っているからかもしれませんが、家族なんてもともと有機的で一つの決まった形などない。シングルファミリーだろうが離婚家庭だろうが、子どもがいようがいまいが、どんな形でも家族です。そのことを伝えたかった」

 

 高校卒業後、デパートで働いていた由紀子は飲み会で智久と知り合い結婚。その後は智久の実家の家業を手伝っていました。2年後には長男・智晴(ちはる)が産まれ、幸せな日々を送っていましたが、双子の次男と三男が生まれるころから、その日常に陰りが見え始めます。家業の業績の悪化、優しい智久の頼りなさや意思疎通の難しさ、智久の恋愛、そして離婚。子どもたちを育てるため、駅の売店で身を粉にして働く由紀子を支えるのは智晴でしたが、その智晴は弟たちや家族を捨てた父、父の新しい家族に複雑な感情を抱いていました。

 

「連載開始前に舞台をどこにするか聞かれたんですが、なんにも思い浮かばなくて(笑)。それで担当編集者に相談し、彼の出身地である群馬県を訪れたところ、冬枯れの寒い北関東がイメージにぴったりでした。しかも彼は智晴と同じ3兄弟の長男で、弟さんたちも双子(笑)。登場人物たちにモデルはいませんが、彼のお父様が縫製業を営んでいたことや、その後タクシードライバーになられたことなどは拝借しました。もちろん、お父様は不倫や浮気はされていません(笑)」

 

 右も左もわからなかった由紀子は、子育てと仕事を通して少しずつ生きる力を獲得していきます。

 

「当初から女性の自立も描きたいと考えていました。それが、生まれたての雛のような由紀子が結婚、出産、仕事を通して目が開いていき、夫の違う面が見えて、やがて自立する姿になりました。夫婦の関係性や役割が変わることはよくあり、その結果、家族の形態が変わるのもよくあることで失点ではありません。失点と思っても、その体験が自分のなかで深く根を張り、いつか反転するときが来ます」

 

 葛藤しながらも最後にはすべてを肯定し、腹を括って前進していく登場人物たちにどれだけ力をもらうことか! 先の見えないコロナ禍の今こそ読みたい傑作です。

 

PROFILE
くぼ・みすみ◎’65年東京都生まれ。’09年「ミクマリ」で第8回「R‐18文学賞」大賞を受賞。’11年受賞作を収録した『ふがいない僕は空を見た』で第24回山本周五郎賞、本屋大賞第2位、’12年『晴天の迷いクジラ』で第3回山田風太郎賞、’19年、『トリニティ』で第36回織田作之助賞を受賞。

 

聞き手/品川裕香
しながわ・ゆか◎フリー編集者・教育ジャーナリスト。’03年より『女性自身』の書評欄担当。著書は「若い人に贈る読書のすすめ2014」(読書推進運動協議会)の一冊に選ばれた『「働く」ために必要なこと』(筑摩書房)ほか多数。

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