akane
2019/07/02
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2019/07/02
地球には、普段でも銀河宇宙線という高エネルギー粒子が降り注いでいます。
この粒子は、大気中の原子とぶつかって高エネルギーの2次的な粒子を発生させます。
飛行機(旅客機)が飛んでいる高度は10キロメートル程度で、6500キロメートルの地球の半径からすれば、地表も飛行機高度も大差ないように思えます。
しかし、高エネルギー粒子という点では、この10キロメートルの違いは大変重要で、緯度によっては、高度10キロメートルでは地表の実に100~200倍程度もの高エネルギー2次粒子が降ってきます。
高エネルギー粒子は放射線と同様の性質と考えてよく、人体が浴びれば放射線に被曝したのと同じことになります。地表では宇宙から来るもの以外に周囲の環境などからの放射線も浴びますが、それを考慮しても、飛行機では銀河宇宙線によるものだけで地上の20~40倍程度の被曝量となります。
特に極域を通過する便、日本と北米、日本とヨーロッパを結ぶ便などでは、多くの高エネルギー2次粒子にさらされることになります。その量は、放射線被曝量で表すと1回の飛行で乗客一人につき50~100マイクロシーベルトという値になります。
1回の飛行10~12時間でこの量の被曝を起こす放射線量というのは、実は福島第一原発周辺の帰還困難区域のレベルです。
ただ、この50~100マイクロシーベルトというのは胸部X線撮影1~2回分程度です。
したがって、繰り返し飛行機に乗る乗務員は別として、一般の乗客は被曝量を管理しないとうけないようなことはありません。
しかし、これは常時降り注いでいる銀河宇宙線についてであり、さらに太陽から高エネルギー粒子、太陽宇宙線が来る場合は銀河宇宙線よりもエネルギーが低いため、多くの場合、影響を考える必要はありません。
しかし、頻度が少ないとはいえ、1942年のイベントのように、大規模なフレアにともなって地表の検出器でもとらえられるほどの高エネルギー粒子が太陽から降り注ぐ現象が起こることもあります。
このような現象は、GLE(Ground Level Enhancement)と呼ばれ、1942年以来、70個あまりとらえられています。
GLEの中で最大だったのは1956年に起こったフレアイベントです。
この時の高エネルギー粒子の量は、飛行機の高度であれば通常の数十倍から100倍程度になっていたと考えられます。
もし、この時に飛行機に乗っていたら、それだけの被曝をしたと考えられ、これだけで一般人の年間の被曝限度の基準を超えてしまうほどです。
1956年のイベントほどのものは数十年に1度のものです。
しかし、これほどでなくても太陽高エネルギー現象の発生が見込まれる場合、人体への影響が懸念されます。そこで、どのようなフレアが起こったら、実際に地球上のどの場所でどのような影響が起こるのかを理論的に計算する研究も進んでいます。
人類は、いまや飛行機よりもさらに上空、宇宙空間にも進出しています。たくさんの人工衛星があり、さらに国際宇宙ステーションでは飛行士が滞在して活動しています。大気中では大気そのものが宇宙線を防ぐ役割をしていますが、宇宙には、それが存在しない、宇宙や太陽からの粒子にさらされる世界です。
地磁気があるために、外からの粒子は必ずしも直接衛星まで降り注げるわけではありませんが、一方、「放射線帯」といって、そのような粒子が地球磁場にとらえられているところが地球を取り巻いていて、そこから来る粒子もあります。国際宇宙ステーションが飛んでいるあたりですと、地表の100倍、飛行機に比べてもさらに数倍の高エネルギー粒子を浴びることになります。
最近、一般人の宇宙旅行が話題になっています。
しかし、宇宙空間というのは実は高エネルギー粒子にさらされた過酷な世界で、単に飛行機に乗ることの延長ではありません。
実際、国際宇宙ステーションには宇宙線の観測装置がいくつも搭載されていることからも分かるように、多量の宇宙線が降り注ぐ環境なのです。
その国際宇宙ステーションの、地表の100倍という値でさえ、地球の磁場に守られての数字です。まじめに考えられるようになってきた月面基地や火星有人探査などは、地球のように磁場や大気の防御のない世界、そこにいるだけで被曝してしまう世界へ飛び出していくことであることを認識する必要があるでしょう。
また、大量の粒子によって、衛星自体の故障が引き起こされることもあります。
太陽での激しい爆発にともなって大量の高エネルギー粒子が衛星にぶつかると、衛星が帯電して電気系統に異常を起こしたり、半導体内部にまで侵入して誤動作や故障を起こしたりするというのが主な原因です。このうち半導体の不具合は、特に高いエネルギーの粒子によって起こることから、銀河宇宙線が原因となることも多いのです。しかし、太陽から大量の高エネルギー粒子が来るのも衛星にとっては大変危険で、大規模な高エネルギー粒子放出をともなうようなフレア・大量のプラズマを噴出するコロナ質量放出の際には、時によっては複数の衛星が同時に不具合を発生する例も報告されています。
例えば、2003年10月28日に太陽で大フレアが発生した際、地球を周回する人工衛星の多くのものが不調になっています。
さらに、折しも小惑星イトカワへ向かって飛行しようとしていた探査機はやぶさもフレアに遭遇し、太陽電池パネルの出力低下という損傷を受けています。
他にもアメリカの火星探査機マーズ・オデッセイの一部機器が故障しています。
このように、人類の活動が地球をはるかに飛び出すようになると、今までにはない太陽の影響が新たに出てくるのです。
ただ、人工衛星に不具合といっても、一般人は直接衛星を使うことはないので、報道されることがないと、通常は衛星の故障を知ることはなかなかできません。
しかし、1994年の2月21日には、ノルウェーのリレハンメル冬季オリンピックの衛星中継が行われていて、日本でも家庭にまで映像が配信されている中で、前日の20日に太陽表面のちょうど真ん中あたりから飛び出したプラズマ塊が衛星にぶつかり、中継が中断するということも起きています。
※本稿は、花岡庸一郎『太陽は地球と人類にどう影響を与えているか』(光文社新書)の内容の一部を再編集したものです。
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