akane
2019/08/06
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2019/08/06
※本稿は、山口慎太郎『「家族の幸せ」の経済学 データ分析でわかった結婚、出産、子育ての真実』(光文社新書)の一部を再編集したものです。
医療上必要な帝王切開はお母さんと赤ちゃんの命を救うものですが、そうでない場合に行われると、お母さんと赤ちゃんの双方に、健康上の悪影響が及ぶのではないかという懸念もあります。
お母さんについては、帝王切開のために入院期間が長くなり、分娩後の出血や心停止のリスクが上がることが報告されています。
また、その次以降の妊娠にも悪影響があるとされており、胎盤の異常が発生しやすくなったり、早産が起こりやすくなったりするようです。
帝王切開で生まれてくる子どもについては、肺や呼吸器の機能に問題を抱えたり、免疫発達に問題が生じ、アレルギーや喘息を患いやすくなったりするようです。また、腸内細菌の種類が減少したりすることも報告されています。
一方で、注意欠陥・多動性障害や自閉症との関係はないものと考えられています。
さまざまな研究が帝王切開の持つ健康上の悪影響を報告していますが、これらにも限界はあり、確定的な知見を得るには至っていないことには注意が必要です。
一般的に言って、帝王切開を行う場合には、そうでない場合と比べて、お母さんと胎児の健康状態が悪い可能性があります。
もしそうならば、帝王切開を行ったお母さんと子どもには健康上の問題が生じやすくなりますが、それはもともとの健康状態が悪かったせいで、帝王切開が原因ではありません。
多くの研究では、もともとの健康状態を考慮に入れて統計学的な分析がなされていますが、そうした取り組みが完璧に行われていない可能性は十分にあるため、まだまだ確定的な評価を下すのは難しく、さらなる研究が必要とされています。
帝王切開が子どもの健康に及ぼす悪影響について、決定的な証拠が出てきてはいないものの、そのメカニズムについては三つの仮説が提示されています。
一つめは、お母さんが持つ細菌や微生物を、赤ちゃんがうまくもらうことができないというものです。
こうした微生物は免疫機構の発達に必要で、特に生まれてからの数週間には重要な役割を果たすと考えられています。
二つめは、通常分娩の際に生じるお母さんのストレスホルモンと、産道を通る際にかかる物理的な力を受けられなくなってしまうためだというものです。
これらは赤ちゃんにとって生理学上重要な刺激ですが、帝王切開では生じないものです。
三つめは、出産方法により遺伝子発現が影響を受けて変化してしまい、赤ちゃんのその後の健康に影響を及ぼすというものです。
いずれの説も、その正しさが十分検証されたとは言えないようですが、出産方法と生まれた子どもの健康の間に関係があることは、生物学的にも説明がつきうるようです。
帝王切開がお母さんと赤ちゃんの健康に悪影響を及ぼしかねないことを紹介しました。
一方で、繰り返しになりますが、医学上の必要があって行われる帝王切開が多くのお母さんと赤ちゃんの生命を救ってきたことも忘れてはなりません。
今後も、お医者さんが必要と認めれば、ためらわず帝王切開を行うべきことは間違いないのです。
また、帝王切開にはマイナス面が伴うとはいえ、帝王切開を行ったお母さんを批判するようなことはあってはなりませんし、帝王切開で生まれた子どもは問題のある子どもだというような偏見は誤りですから、そうした見方をすべきではありません。
帝王切開がお母さんと子どもの健康に悪影響を及ぼすのならば、その問題を軽減するための支援を提供する制度を築いていく必要があります。
そして、医療制度や法的リスクの問題、人々の認識の変化といった理由によって、不要な帝王切開が生じているのならば、それらを減らすような形で社会制度を調整していくことも同様に必要でしょう。
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