akane
2019/09/26
akane
2019/09/26
※本稿は、小出宗昭『掘り起こせ!中小企業の「稼ぐ力」』(光文社新書)の一部を再編集したものです。
企業支援は、企業との面談の場がすべてです。
短時間で相談者から情報をできるだけ引き出し、できれば初回で解決の方向性を見いだしたいものです。方向性というのは、セールスポイントの発見やターゲットの絞り込み、コラボの必要性の判断などです。
たとえば、熱海市で創業100年の老舗椿油店・サトウ椿の販路拡大の方針は、出張相談の初回で決めています。売上が伸びずどうしたらよいか分からないと訴えるなかで、最高級の外資系ホテルの天ぷら専門店が使っている、という情報が決め手になりました。
なぜ高級天ぷら店が採用したかというと、「カラッと軽く揚がる」「劣化しにくい」「サラッとしていてクセがない」といった椿油特有の特徴が、天ぷらにぴったりと考えられたからとのこと。
ここから、「天ぷら専用の椿油」をアピールすることに決めました。世の中に食用の椿油は溢れていますが、天ぷら専用はこれだけ。オンリーワンです。
このように、強みを明確化できれば、おのずとターゲットも見えてきます。あとは、狙う層に向かってどんな方法でPRするかです。
ここで注意しなければいけないことがあります。
サトウ椿の佐藤秀幸社長とのやりとりでは、ターゲットは天ぷら専門店や高級料理店、それに高級志向の一般消費者だと考えましたが、ひらめきや直感だけでは読み間違える可能性があります。
そこで、私は必ず「日経テレコン」などのデータベースを用いて客観的なデータで裏付けを取ることにしています。「日経テレコン」は国内外140以上の新聞に加え、主要な専門誌や一般雑誌の記事、企業、マーケット、人事情報など、ビジネスに必要な情報が網羅されたデータベースです。
このときも「日経テレコン」で、天ぷら専用の椿油がどれくらい流通しているかを調べました。「椿油」「天ぷら」「食用」のキーワードで検索すると、過去7年さかのぼっても、たった7件しかヒットしませんでした。しかも、天ぷら専用の椿油は1件も見当たりません。つまりこれは、競合相手のいない、オンリーワン商品だったわけです。
これらの客観データから、私の読みは間違っていないと確信しました。
その後の打ち合わせを経てリニューアルされたパッケージには、「天ぷら専用の油」と表示され、プレスリリースでは「からりと軽く揚がる」「サラッとして食材の風味を活かす」「劣化しにくい」といった椿油の特性を謳いました。
また、熱海市の職員が中心となり、商品発表と試食会を行ったことを首都圏メディアが紹介したため、天ぷら専門店はもちろん、日本料理店からの問い合わせが急増。最大30倍の売上増につながりました。
サトウ椿のケースに限らず、初回の面談で相手企業(商品)の強みを見いだし、方向性と、できれば戦略のアウトラインまで描くことを心がけています。「セールスポイントを見つける」「ターゲットを絞る」「連携する」という企業支援の3ポイントのうち、どれを用いるのが適切な案件かを見極めます。
方向性が見えないときは、相談者に「次回までに自分の強みや自分のこだわりを書いてきてください」と頼むこともあります。強みがなかなか見つからないときは、「あなたの年表を書いてきてください」と言うこともあります。
注意していただきたいのは、履歴書ではなく「年表」だという点です。履歴書では大まかな足跡しか記されませんが、年表レベルに細かく落とし込むと、思わぬところにヒントが隠されていることがあります。経営者の過去の足跡のなかに、強みやオリジナリティが見つかることがよくあるからです。
「えっ、社長、有名旅館で料理人をやっていたんですか!?」といった感じで、手がかりをつかんで新しいビジネスに展開した例もあります。
こうした打ち合わせのコミュニケーションで重要なのは、相手の気づいていない「セールスポイント」を見いだし、的確に褒めることです。
さまざまな質問を相手に投げかけながら、自分がすごいと思ったこと、感心したことについては素直に伝えながら、戦略を練っていくのです。
短時間のうちに本質的な情報を得るには、相手に「この人になら話す価値がある」「この人に話せば何かが変わるかもしれない」と思ってもらうことが重要です。
お気づきのようにコミュニケーションでは、相手と同じ目線、同じ土俵に立つことが、すべての出発点です。そうしないと当事者意識は得られず、なかなか初回から突っ込んだ話になりません。
そのためには、日頃からさまざまな情報を蓄えておくことが不可欠です。自分の経験から分かることがあったら、それもメモしておくといいでしょう。
コミュニケーション力においては、会話のイニアシチブ(主導権)をとることも重要な資質です。
さらに、あらゆる機会を利用して情報発信していくことを考えれば、ときに自分が広告塔になることも辞さない――私はそう決めています。
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