正しいマニュアル/ダメなマニュアルの違いから学ぶ『人に伝わる文章の書き方』
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ryomiyagi

2019/10/18

 

家電の取扱説明書、パッケージの注意書き、Q&Aの問答集、申込書、ルールブック……現代社会はさまざまな「マニュアル」で溢れている。しかしそれは、人間を混乱させミスを誘発する、読んでも分からない「ダメなマニュアル」になってはいないだろうか? 「正しいマニュアル」の作り方から明快な文章術・デザイン法・作業手順の組み方・心理学を学ぶ、文章術編です。

 

※本稿は、中田亨『「マニュアル」をナメるな!~職場のミスの本当の原因~』(光文社新書)の一部を再編集したものです。


■チャーチルの原則

第二次世界大戦序盤の1940年、苦戦していた英国にて、首相チャーチルは次の通達を政府の全部署に出した。

 

「我々の誰もが、職務を遂行するために膨大な報告書を読まねばならない。その報告書のほとんど全部が極めて長すぎる。どこに要点が書いてあるのかを探すのに、時間と体力を無駄にしている。

 

報告書を短く書くように、私は同僚職員諸君に次の点を求める。

 

(1)報告書は、短く、仕分けの利いた段落を並べて作れ。

 

(2)報告の根拠となる、詳細な分析や、複雑な事情、統計データなどが添付できる場合でも、それらは別紙付録に追いやれ。

 

(3)表題と見出しだけのメモ書きは、長文の報告書にしばしば勝る。メモ書きでは不足する情報は口頭で補えばよい。

 

(4)曖昧な言い回しはしない。「次のような懸念もまた留意することが重要と言える」や、「この懸念が現実味を帯びることについて検討があってしかるべきであろう」などだ。これらはただの水増しであり、削除できるし、一単語で置き換えることもできる。短い表現をためらうな。くだけた言い回しでも構わない。

 

この原則で書かれた報告書は、はじめのうちは従来のお役所言葉に比べて粗く見えるかもしれない。しかし、大いに時間を節約できるし、重要点をきれいに記述することは明晰な思考を助ける。」

 

要は「繁文縟礼(はんぶんじょくれい)」を戒めているのだ。

 

この考えは、現代でも輝きを失っていない。英語圏で出版されている作文術の教科書では、たびたび引用され続けてきた。

 

むしろ現代の方が、極めて悲惨な状況である。電子メールなどの長文が職場で乱発されるようになり、メールの読み書きをするだけで、一日の仕事時間が尽きてしまうこともある。

 

紙の書類も多すぎる。あるオフィスビルでボヤがあり、火元の階はスプリンクラーが作動して水浸しになってしまった。机の上ばかりでなく棚や通路際にも書類の山が積んであったが、それらはぐっしょり濡れてしまい、廃棄せざるを得なかった。

 

だが、それらが片付けられて職場がスッキリし、むしろ仕事がはかどるようになったという。積んである書類は、おそらく捨てられるし、捨てるべきということである。

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「マニュアル」をナメるな!

「マニュアル」をナメるな!職場のミスの本当の原因

中田亨(なかたとおる)

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