ryomiyagi
2019/10/21
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2019/10/21
家電の取扱説明書、パッケージの注意書き、Q&Aの問答集、申込書、ルールブック……現代社会はさまざまな「マニュアル」で溢れている。しかしそれは、人間を混乱させミスを誘発する、読んでも分からない「ダメなマニュアル」になってはいないだろうか? 「正しいマニュアル」の作り方から明快な文章術・デザイン法・作業手順の組み方・心理学を学ぶ、デザイン編です。
※本稿は、中田亨『「マニュアル」をナメるな!~職場のミスの本当の原因~』(光文社新書)の一部を再編集したものです。
文書は、多分に視覚的な要素を含んでいる。
新聞の見出しが代表例である。我々は、見出しだけを読んで、ポイントを大まかに理解し、それで済ませている。
新聞の全文を一文字一文字、順に読むことが読書としては正式ではあるが、これは時間がかかり、理解も難しくなる。ポイントだけを読む方が、全文に目を通すより、頭の中がすっきりする。
小学校の作文の授業では、原稿用紙枚数のノルマに届かせようと、むやみに段落替えをすると、先生に怒られたものである。
しかし、マニュアルや社内文書では、何行も続くような長大な段落があることは、異常事態と思わなければならない。
段落は、一つの主張を言ったら、すぐに替える。こうすれば、一つのアイデアが、一つの文字列の塊に対応する。論点の状況を、文章の見た目から把握できるようになる。
普通の文書は、冒頭から終わりに向かって順を追って一直線に読むことを想定しているが、そこで説明される内容も一直線的に順を追って理解するのがよいとは限らない。むしろ、物事は二次元や箇条書きで配置して説明する方が分かりやすいことが多いのである。
社内文書なのに、無駄に形式ばって、説明文を一直線的に並べているものがある。たとえば、上図のように、挨拶や、経緯、訓示めいたことを普通の文で書いてしまう。これでは読破するのに時間がかかる上に、要点をすくいとることが難しい。
ポイントを体言止めで抜き出し、見出しを箇条書きに並べてみれば、図像として内容の論理構造を理解できる。こうすれば、速読でき、理解も簡単だし、さらには忘れにくい。
視覚的効果は大事ではあるが、文字修飾だけはやってはならない。傍点や色文字、横線、下線など、一つ一つの文字を飾ることである。
これは、読者の注意力を高めることをねらって使われているが、実際には逆で、読者を混乱させる。
文字修飾を使うと、整然とした行の並びが壊れ、読者の注意が拡散する。文字修飾が乱発されている文書は、それぞれの部分が「ここは大事だから読んでくれ!」と大声で叫びあっているようで、紙面全体がやかましくなる。
大事な文字だけ赤で書くというスタイルがあるが、これは危うい。コンピューターの画面では赤い光線を放って目立つ文字も、いざ紙に印刷してみると、インクは自分では光らず目立たないことがよくある。
また、屋外や蛍光灯の光が当たる場所の看板に使うと、赤の部分だけ先に色あせてしまい、肝心な部分だけが消えてしまうという事態が起こる(下図)。
例外的に文字修飾を使うべき場合がある。「両国国技館の所在地は東京都墨田区横網一丁目」のように、紛らわしい文字の存在を警告するためなら、ごく少数を使うことは許される。
プロは文字修飾を使わない。それが証拠に、新聞や雑誌の文章で文字修飾はほとんど使われていない。代わりに、見出しや、段落、箇条書きというレイアウトの技を使って、読者に分かりやすく論点を整理している。
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