がん、糖尿病…あらゆる現代病に直結する深刻な「ビタミンD不足」
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ryomiyagi

2019/10/24

 

がん、心・血管疾患、生活習慣病、感染症、精神疾患など、多くの病気との関係が認められている栄養素“ビタミンD”。しかし、現代人のほとんどが欠乏症であるという研究結果が発表され、これが現代病の蔓延につながっていると言われています。なぜ私たちは、深刻なビタミンD不足に陥ってしまっているのでしょうか。

 

※本稿は、古川健司『ビタミンDとケトン食 最強のがん治療』(光文社新書)の一部を再編集したものです。

 

■現代人は1日最低量の半分しか摂取できていない

 

現代人がいかに、ビタミンDの欠乏・不足の状態に陥っているか。いま私の手元には、厚生労働省が2005年から2006年にかけて実施した「国民健康・栄養調査」の資料があります。

 

そのなかに、新潟県と長野県の日本人女性を対象に、ビタミンDの摂取量と血中ビタミンD濃度を測定した興味深い報告が掲載されています(図表)。

 

 

調査の年齢対象は、19~29歳、30~49歳、50~69歳、70歳以上の4階級。さらに、それを調査時期と対象人数とで細かく分け、計16グループの健康・栄養状態を、血中ビタミンD濃度の平均値としてまとめています。

 

また、それぞれの年齢階級に対応する1日当たりのビタミンD摂取量の中央値を、平成17年及び18年の「国民健康・栄養調査」から引用し、併記しました。

 

なお、「平均値」がデータの総数をデータの個数で割った値であるのに対して、「中央値」とはデータを小さい順から並べた結果、全体のちょうど真ん中にくる値を指します。

 

各年齢階級のビタミンD摂取量の中央値は、18~29歳が3・1㎍、30~49歳が3・2㎍、50~69歳と70歳以上では5・7㎍でした。厚労省が目安とするビタミンD摂取の最低量が、1日5・5㎍ですので、18~49歳の年齢グループでは、その半分強しか摂取していないことになります。

 

図表を見てもわかるように、そのことが血中ビタミンD濃度に反映されていました。特に19~29歳の年齢階級では、日照時間の短い2月の調査(38人対象)だけでなく、日照時間が伸びた4月の調査(77人対象)でも、血中ビタミンD濃度の中央値がわずか13/ml強と、いずれも20/ml未満のビタミンD欠乏症であることがわかったのです。

 

これは、食物からのビタミンDの摂取不足に加え、日焼け対策などで紫外線を浴びていないことにも起因していると思われます。

 

一方、50~69歳の年齢階級の9グループでは、1日5・7㎍のビタミンD摂取が物語るように、すべてのグループの血中ビタミンD濃度が20/ml以上で、欠乏症は免れています。

 

ただし、低値傾向にあることは変わりがなく、特に日照時間が短い冬の時期にはその値が低下しています。

 

逆に、日照時間の長い9月の調査時期には、同年齢階級のすべてのグループが正常値(30/ml以上)に達しています。これは紫外線による皮膚でのビタミンDの合成が関与していると思われます。

 

その証拠に、時期を限定せずに行った70歳以上の女性(190人)を対象とした調査では、厚労省の摂取目安に入る1日5・7㎍のビタミンDを摂取しているにもかかわらず、血中ビタミンD濃度の中央値が19・5/mlの欠乏状態。

 

これは、皮膚の老化に伴って、ビタミンDの合成能力が著しく衰えていることに起因しています。

 

■現代社会でビタミンD欠乏症が蔓延する理由

 

なぜ、現代社会でビタミンDの欠乏症が蔓延するようになったのでしょうか。考えられる要因は、4つほどあります。

 

一つが、現代人があまり日光を浴びなくなったこと。つまり、行きすぎた紫外線対策です。

 

不可視光線の電磁波である紫外線は、生体に対する化学的な作用が顕著なため「化学線」とも呼ばれています。これは主に、地上に届く紫外線の約90%を占めるUVA(紫外線A波)と残りのほとんどを占めるUVB(紫外線B波)、そして通常はオゾン層に吸収され地表には届かないUVC(紫外線C波)とに分類されます。

 

このうち、波長の長いUVAは深く皮膚のなかに浸透しますが、長い時間浴び続けると、皮膚の弾性組織を破壊し、その老化を加速させます。

 

一方、UVBは皮膚の表面に強い影響を与え、長く浴び続けることで、皮膚がんや白内障、免疫機能障害などの健康被害のリスクを高めることがわかっています。これに、オゾン層の破壊や減少などによるUVCの照射が加わると、そのリスクはいっそう高まるのです。

 

現代人、特に女性は、日傘をさすなどして肌の老化予防に懸命になっています。さらに、健康被害のリスクへの恐怖から、多くの人が夏場でも長袖を着て日光をできるだけ浴びないようにし、UVをカットするための日焼け止めクリームを皮膚に塗るようになりました。

 

おまけに、デスクワークが主となり、外に出て日光を浴びる時間も減りました。交通網の発達によって、太陽の下に身をさらすことも少なくなっています。

 

これが、体内におけるビタミンDの合成を阻害する大きな要因として考えられます。

 

2つ目は、生活環境の利便性・快適性が、現代人のビタミンDの合成能力を低下させたのではないかということです。

 

たとえば、現代人が断熱材使用の快適な住居空間で暮らしているのに対して、100年前の人は隙間風が入る木造家屋に住んでいました。冬場の暖房も火鉢が主で、現代のようにエアコンもありません。冷たい隙間風が入るたびに、ブルッと体を震わせるしかありませんでした。

 

これを「震え産熱」と呼びますが、実は肉体の自然反応としてのこの震えも、ビタミンDの合成に深く関わると見られています。

 

極端な寒さを感じたとき、人の体は発熱を促進するために、血糖値を上昇させたり、物質代謝を促すためのホルモンを放出したりします。このとき細胞の呼吸や代謝が活性化されることで体がブルッと震え、コレステロールからビタミンDの合成が促されるのです。

 

快適空間に慣れた現代人は、こうした震え産熱を経験する機会も減ってきました。その分ビタミンDの合成能力が低下し、自己免疫力も衰えたのではないかと考えられます。

 

3つ目は超高齢社会の到来と関係しています。

 

ビタミンDは日光浴で簡単に体内合成できますが、加齢とともに皮膚での合成能力が低下し、高齢になると、その能力がほとんどなくなります。このことが、高齢化に伴う様々な慢性病を引き起こす要因ではないかと、私は考えています。

 

そして、4つ目の要因として挙げられるのは、現代のストレス社会がビタミンDの体内合成を阻害しているのではないかというものです。

 

というのも、最近の研究によって、ストレスがビタミンDの合成能力を低下させ、うつ症状などの精神の変調を引き起こすことがわかってきたからです。

 

これは、日照時間が短い季節、したがってビタミンDの合成も低下する冬場に、季節性うつとも言われる「季節性情動障害(SAD)」を発症する人が多いことからも、説明することができます。

 

たしかに、現代人の多くは仕事や人間関係において、多くの葛藤、ストレスを抱えています。昼夜逆転の不規則な生活も、もはや当たり前になってきました。

 

私は、自分が勤務する病院の看護師50人の血中ビタミンD濃度を調べています。もちろん、全員が表面上は健康体の持ち主です。

 

しかし、正常値は1人も存在せず、47人が欠乏症、3人が不足という予想外の結果が出ました。がん患者さんと同等のビタミンD欠乏症という実態が明らかになったのです。

 

その理由として、看護師たちが患者さんの命を守るという緊張が連続する立場に置かれているだけでなく、昼夜逆転の勤務を余儀なくされるという慢性的なストレスに晒されていることが挙げられるかもしれません。

 

以上のことを考えると、現代社会とは、まさにビタミンD欠乏症の温床と言えるでしょう。

 

そして、そのことに日本の医療が長く気がつかなかったのが、がんや糖尿病をはじめとする現代病の暴走を許す一因になったのではないかと、私は考えています。

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ビタミンDとケトン食 最強のがん治療

ビタミンDとケトン食 最強のがん治療

古川 健司(ふるかわけんじ)

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