実体験とフィクションが巧みに織り交ぜられた物語があなたを圧倒する|赤松利市さん『女童』
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’18 年に彗すい星せいのごとく文壇に登場した赤松利市さんは激烈な人生を作品にし、出版界に衝撃を与え続けています。新作は「これまで書けなかった、娘と2人で幸せに暮らした2年間を、腹をくくって小説にした」もの。それぞれが生きようともがく姿を描く、魂が震え上がる作品です。

 

読み手の心をえぐるような作品を書くのはこれで終わりにしたい

 

女童』光文社
赤松利市/著

 

「62歳、住所不定、無職」の大型新人として’18年にデビューした赤松利市さん。以来、わずか2年間で7冊の単行本に6本の未収録小説を発表しています。壮絶な実体験をもとに描かれるのは暴力と破壊に満ちた超リアルな世界。不思議な吸引力を持つ赤松作品にハマる読者が急増中です。

 

新作『女童』は’19年4月に出た『ボダ子』(新潮社)に続く物語。『ボダ子』は事業に失敗した主人公・浩平が境界性人格障害と診断された娘・恵子を連れて東北に行き、東日本大震災後の復興バブルにかけることにするが……という話でした。『女童』は東北に行く前、浩平が毒母から恵子を引き離し2人で神戸で暮らした日々を描きます。

 

「実は、『女童』を書く前に別の内容で530枚の長編小説を書きおろしていて、担当編集者には渡していたんです。ところが『ボダ子』を読んだ作家の寮美千子さんに『娘と2人だけで暮らした神戸の話を書かないの? その幸せのなかにもいろいろあったでしょ? どんな覚悟で作家やってんの、そのことを書きなさいよ』と叱咤されました。それで、渡していた小説をボツにしてもらい『女童』を書き上げたんです(笑)」

 

ほぼ24時間マンガ喫茶で生活し、15時間以上を執筆に費やす赤松さんは「座りすぎで腰をやられまして」と言いながら丁寧に話します。

 

「娘と暮らした神戸は幸せな思い出。だからこそ書きたくなかったんです。それなのに光文社さんからは恵子の一人称で書いてほしい、と。それで『ボダ子』の編集だった新潮社の中瀬ゆかりさんに無茶なことを言われたと愚痴ったら『それ、読みたい!』と言われて。『ボダ子』ですらつらかった日々を思い出すのがこたえ、心療内科に通いながら書いたのに、そのうえまだ読みたいなんて彼女は鬼畜やって思いましたわ(笑)。覚悟を決めましたが、今回も心療内科に通いながら書きました」

 

本作品では、薬物依存になった中学生の恵子と、仕事よりも娘と暮らすことを選んだ浩平の日々が恵子の視点でつづられます。極小部屋で息を潜めながらも、漫画を買ったり魚釣りに出かけたりする恵子。微かな癒しに読み手はホッとしつつ読み進めることに。

 

「私は性や暴力を書きたいわけではありません。これまでも被災地や末端で働く土木作業員や除染作業員を書きたかったわけで……。娘は小学4年生のころからリストカットをしていたのですが、私は全然気づかなかった。娘はいろんな形でSOSを出していたのに、それに気づいてあげられなかったんです。神戸での2人の生活は幸せでしたが、それでも今は娘の病気や苦しさに気づいてやれなかった後悔しかありません」

 

浩平は恵子を少しでも治療をしたいと願い、神戸で心療内科専門のレディースクリニックに通わせます。ところが、この院長が反社会的な治療を行い……。

 

「この人物はフィクションですが、あのときにこんな医師がいたら娘は心を開いて取り込まれていたと思う。2人だけの生活のときも私は娘から逃げていた。楽しい生活間がいたら変わっていたかも、と」

 

今後は性と暴力は書かないと断言する赤松さん。

 

「読み手の心をえぐる作品はもう書きたくない。この作品も読者に共感してもらいたいなど思っていません。ただ、貧困や心の病いとは向き合っていきたいと思います」

 

破壊的で暴力的な物語からは強烈な生への欲望が立ち上ってきて、畏怖の念すら抱く一冊です。

 

■赤松さんの本棚から

 

おすすめの1冊

国宝(上・下)』朝日新聞出版
吉田修一/著

 

「任俠の一門に生まれながらも希代の女形として歌舞伎界の頂点に立つ男の物語。神視点が語るという構成が素晴らしい。全700ページを一気読みしたが、こういう小説を書きたい。とにかく面白い作品でお勧めする」

 

PROFILE
あかまつ・りいち◎’56年、香川県生まれ。’18年に「藻屑蟹」で第一回大藪春彦新人賞を受賞しデビュー。著書に『鯖』『らんちう』『ボダ子』など。

 

聞き手/品川裕香
しながわ・ゆか◎フリー編集者・教育ジャーナリスト。’03年より『女性自身』の書評欄担当。著書は「若い人に贈る読書のすすめ2014」(読書推進運動協議会)の一冊に選ばれた『「働く」ために必要なこと』(筑摩書房)ほか多数。

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