世界的に注目される「ベーシックインカム」AIと経済学の関係を研究するパイオニアが考察。
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いま、世界でベーシックインカム(BI)が注目されている。
BIとは、「政府が、必要最低限の生活を保障するために、すべての人に無条件にお金を支給する」制度を指す。

 

例えば、仮に1人7万円の支給がなされるとしたら、3人家族であれば21万円、4人家族であれば28万円が無条件に支払われることになる。

 

夢物語のように聞こえるだろうか。

 

しかし現在、BI導入をめぐる議論は、特にヨーロッパ諸国を中心に世界でかつてないほど盛んになっている。

 

最も早くBIの導入が実現しそうなのは、インドとフィンランド。
インド政府は、2018年に2年以内に一つか二つの州でBIを導入することを発表している。
フィンランドでは、現在、政府が抽選で選ばれた失業者2000人に対して月6万8000円を給付する実験を行っている。
オランダでは、ユトレヒトやアムステルダムなどのいくつかの都市でBIの試験的な導入図られ、アメリカでは、シリコンバレーのベンチャーキャピタル、Yコンビネータが大規模な実験を行っている。
スイスでは否決されたものの、2016年6月にBI導入検討の国民投票が行われ、賛成票は23.1%だった。

 

なぜ、BI導入をめぐる議論がこれほど盛り上がっているのか。
主な理由は次の二つだ。

 

1.主に先進国における格差の拡大、貧困の増大を解消する手段としての期待
2.人工知能(AI)やロボットが多くの人の雇用を奪うようになるのではないかという予想

 

BIは、これらを補うものではないかとの指摘だ。
だが、BI導入をめぐっては、次の2点がよく指摘される。

 

1.財源はどう確保するのか
2.労働意欲が失われるのではないか

 

これについてはどうだろう。

 

『AI時代の新・ベーシックインカム論』(井上智洋著・光文社新書)によれば、まず、財源については、基本的には増税によって費用をまかなうとしているが、ここで注意すべきなのは、増税額に目を向けるのではなく、増税額と給付額の差し引き額に目を向けるべきだという。どういうことか。
「給付額 ―(マイナス)増税額」がプラスであれば純受益が、マイナスであれば純負担が個々人に発生する。この差し引き額を全国民で平均すると、理屈の上ではゼロとなる。要するに、国民全体にとっては損も得も生じないと述べる。

 

労働意欲については、給付額に依存するため、単純にYESかNOかで答えるべきではないとしている。また、これまで世界で行われたBIに関する実験で、日本円にして月当たり3万円から15万円程度の給付では、労働時間はわずかしか減ることがないこともわかっているという。

 

その他、本書では現行の貨幣制度に問題について、そしてAI時代になぜBIが不可欠となるのか、等々、BIに関する論点が網羅されていて、読み応え十分の一冊になっている。

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この記事の書籍

AI時代の新・ベーシックインカム論

AI時代の新・ベーシックインカム論

井上智洋(いのうえともひろ)

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