akane
2018/04/26
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2018/04/26
「団塊の世代」の退出後、見えてくるのは、新たな分断社会の姿――。
最新、かつ最大の社会調査に基づいて、わたしたちの社会の近未来の実情を幅広い読者に訴えようとしている新書『日本の分断――切り離される非大卒若者(レッグス)たち』(吉川徹著)によれば、日本の現役世代を8つのセグメントに切り分けると、深刻な分断が浮き彫りになってくるといいます。
まず視点を現役世代(調査時20~60歳=1955~94年生まれ)の約6千万人に絞りこみます。そして男/女、若年/壮年、大卒/非大卒という分断線によって、8つのセグメントに切り分けると、「壮年大卒男性」「壮年大卒女性」「壮年非大卒男性」「壮年非大卒女性」「若年大卒男性」「若年大卒女性」「若年非大卒男性」「若年非大卒女性」の8つのチームに、ほぼ均等に分けられます。
今の日本社会は、この「8人」のレギュラーメンバーが支えているとみることができます。最新の社会調査データを元に、それぞれの社会経済的地位や家族関係、心のあり方や社会とのかかわり方をみていくと「あ、それあるある」と腑に落ちる実態ばかりなのですが、やがて副題である「切り離される非大卒若者(レッグス)」の深刻な実情が浮き彫りになってきます。
ここでこの本が意図しているのは、8つのセグメントの切り分けという枠組みを、最新の調査データにあてはめてみると、人生の有利・不利の凸凹が、はっきりとみえてくるということを示すことです。
結果として、現代日本社会の経済力、仕事、家族、地域などの特性が、「8人」の人生の分断状況として、わたしたちの眼前に立ち現れてきます。調査結果や分析をもとに、手元に集まってきた8つの「プロフィール」を整理してみましょう。
◇【壮年大卒男性】――20世紀型の「勝ちパターン」
「8人」の拡大若者のなかで、社会経済的地位について「一人勝ち」状態にあるのは、壮年大卒男性です。彼らは、大卒学歴をもって20世紀のうちに労働市場に入り、多くがホワイトカラー正規職として、20~30年ほどのキャリアを積んで今日に至っています。彼らの半数弱はずっと同じ勤め先で働き続けていて、離職経験をもっていません。
その時代の男性であるがゆえに、家事・育児に手がかかるライフステージでも、ワークライフバランスを考慮して仕事の手を緩めることはあまりなかったことでしょう。結果的に、仕事にかんしては、10人に1人の比率で管理職あるいは経営者への昇進を果たしており、職業威信は他の人たちより有意に高く、個人年収では他の人たちを大きく引き離し、世帯にも経済的な余裕があります。
そして彼らの8割以上は、結婚して家族をもっています。幼少期からの人生を顧みれば、日本社会が未曽有の成長の只中にあった、昭和30~40年代生まれの彼らの約7割は、自分の親よりも高い学歴に至ることができた地位の上昇者でもあります。
以上の点で、壮年大卒男性は、男性優位、年功序列、大卒学歴至上主義、そして産業化による構造的な地位上昇という、20世紀の人生の「勝ちパターン」の恩恵に与っている人たちだといえます。
ここで読者は、映画やドラマや報道などで、バブル世代の典型像として描かれるのが、多くの場合、この壮年大卒男性の生き様だということに気付いたと思います。かれらの社会学的な意味での正体は、第一の近代の「最終バス」に乗ることができた、時運のよい後期若者たちなのです。
◇【壮年非大卒男性】――貢献に見合う居場所
40~50代の中卒・高卒学歴の男性たちは、「8人」のなかでは、人口規模が2番目に大きいセグメントです。彼らの働き方の特徴は、ブルーカラー職従事者がたいへん多いということです。彼らがもっている強みは、正規職もしくは自営・経営者が多く、個人年収も比較的多いという生活の安定性です。
そのことが、7割という有配偶率と、全体平均を上回る1・62人という子ども数の基盤となっているといえるでしょう。彼らは10代のうちに社会に出ていますので、「8人」のなかで一番長く、すでに20~40年も日本社会を大人として支えてきた人たちです。結果として、その貢献に見合う居場所を得ることができているとみることができるでしょう。
ただし、世帯の経済的な豊かさは、下の世代の大卒層と同程度であり、職業威信もあまり高くはありません。
親世代からの生い立ちを顧みると、非大卒再生産が大半を占めています。そして彼らの一部は、壮年非大卒女性とともに、大卒層の数が少ない地方コミュニティを支えることに力を発揮しています。
◇【壮年大卒女性】――ゆとりある生き方選び
壮年大卒女性の特性は、労働時間が少ないわりに、世帯年収が多いという暮らしのゆとりです。
男女雇用機会均等法が施行されたのは、今から32年前の1986年のことですから、彼女たちの多くは、均等法以後の世代だということになります。しかし、このセグメントの専業主婦(無職者)の比率は20%を超えており、かならずしもだれもがキャリア女性として男性と肩を並べて働き続けているというわけではありません。
それでも、同世代の非大卒女性と比べると、ホワイトカラー比率が高く、正規雇用者が多く、職業威信も個人年収も上回っています。
8割以上が既婚者で、彼女たちの夫の7割は大卒層であり、このことが世帯の豊かさと安定をもたらしていることも、無視できない事実です。標準的な子ども数は1~2人と比較的多いのですが、多くは学齢期以後の、手はかからないけれども教育費などのかかる年齢に達しています。この点で、多くがM字型雇用の後半の再就業のライフステージにいるとみることができます。
総合的にみると、彼女たちは、キャリア女性、主婦、母親、あるいは後述する余暇活動や社会的活動の積極メンバーなど、多様な生き方を選択できる時間と経済力のゆとりをもち、しかも、ひとたび履歴書を書けば、他のセグメントの人びとに競り負けにくいことが長所だといえます。
◇【壮年非大卒女性】――かつての弾けた女子たちは、目立たない多数派に
壮年非大卒女性は、現役世代のなかで人口規模が最も大きいセグメントです。彼女たちの4人に1人は専業主婦(無職者)であり、働いている人でも、労働時間が短めの非正規就業者が多く、個人年収は決して多くはありません。
しかし、世帯の豊かさではまずまずの水準にあります。未婚者は約7%とたいへん少なく、ほとんどが結婚しているか、結婚経験をもっています。夫は7割が非大卒、3割が大卒です。出自を振り返ると、両親の半数が義務教育卒、4割が高卒相当であり、非大卒再生産という流れのなかで、自らの家庭をもっている女性たちが多いようです。
彼女たちが受け持っている社会的役割は、柔軟な働き方によって、専門職、事務職、販売職、運輸・製造職など、国内の幅広い労働力需要の調整に役立っていること、多くの子どもを産み育てているということ、そして地方社会を支えているということなどです。
ここでわたしたちは、かならずしも条件の良くない社会的地位に、彼女たちを封じ込めてしまっているかもしれない、ということを考慮しなければなりません。その生活水準はもっと豊かになってしかるべきですし、彼女たち自身がここに挙げたような地道な役割を担うことを、どれくらい望んでいるのかもよく見極める必要があります。
とはいえ、現代日本の社会システムのなかで、他の人びとには代わることができない特有の役割を、比較的人口の多い壮年非大卒女性たちに担ってもらっていることは、社会全体にとっては意義深いことです。
同世代の私からみると、「制服少女」「コギャル」と呼ばれていた弾けた女子たちが、結局は、こうした昭和の女性以来の古い人生経路を落ち着き先としていることについて、彼女たちも、結局は第一の近代の「最終バス」に乗ったのだな、という思いを禁じえません。
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