『新型コロナはアートをどう変えるか』宮津大輔(4)私たちはアート界のターニング・ポイントに立っている
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ryomiyagi

2020/10/28

 

 

新型コロナウイルスが流行するまで、「バーチャル・ミュージアム」なんてほとんど耳にしなかった。いまや入館者数第1位を誇るルーブル美術館も、ナポレオン広場から館内まで360度(!)見渡せるオンライン・ビューイングだけでなく、テーマに沿って館内を巡ることのできる「バーチャルツアー」まで発信している。入館者数ではルーブル美術館に負けるが、ニューヨークのメトロポリタン美術館もバーチャル・ミュージアムに積極的だ。

 

同様の動きは日本にもある。国立科学博物館の「おうちで体験! かはくVR」は、一般社団法人VR革新新機構の協力のもと、3Dビュー+VR映像によるイマドキな動画を公開。森美術館は、臨時休館中にオンライン・プログラムを開設した。会期途中にコロナ禍で終了を余儀なくされた展示会を解説付きで公開するなど、多彩なプログラムが楽しめるようになっている。ニューヨークにしてもパリにしても(今は国内ですら)、気軽にふらりと立ち寄るなんてできないから、こんなに便利で気軽なサービスがはじまって、アート好きとしては嬉しくてたまらない。

 

他方で問題もある。著者が指摘するように、来館者の安全確保が最優先されたうえでの限られた人数での入館料収入では、膨らんだコストに対してペイするのはたしかに難しい。2012年から急激に伸び始めた訪日外国人観光客による美術館やアート関連施設へのインバウンド消費によるハンデの問題もある。こうしたなか、顔認証やキャッシュレスなどを導入し、ウィズ/ポスト・コロナを見据えてはやくも新たな取り組みをスタートさせた美術館もあるという。変化したことはほかにもある。

 

アーティストやクリエーターたちが続々と「人新世における最初の転換点=コロナ禍」といかに対峙するかを、芸術でもって描出しているのだ。直接パンデミックを描いていなくても、時代の大きな転機を予測していたかのような作品がすでに多く創作されていることには驚かされる。

 

「人類は紀元前から現在に至るまで、様々な疫病に悩まされ続けてきました。そして、時代を代表する芸術家たちは、その時々に厄災やそれらが炙り出す不条理、欲望、さらには「メメント・モリ(死を想え)」に代表されるような警句を、絵画や物語として描出してきたのです」と著者は語る。

 

私たちはいま、時代のターニング・ポイントに立っているのかもしれない。そしてそれは、アート界のターニング・ポイントでもあることを、実例を提示することで本書は示している。時代を描出するのがアーティストたちの役割ならば、アート作品が発する問いを、今だからこそ、私たちは考え直してみるべきなのかもしれない。

馬場紀衣(ばばいおり)

馬場紀衣(ばばいおり)

文筆家。ライター。東京都出身。4歳からバレエを習い始め、12歳で単身留学。国内外の大学で哲学、心理学、宗教学といった学問を横断し、帰国。現在は、本やアートを題材にしたコラムやレビューを執筆している。舞踊、演劇、すべての身体表現を愛するライターでもある。
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宮津大輔

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