生涯現役社会到来!「残念なシニア」にならないための9タイプチェック 『失敗しない定年延長』(2)
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BW_machida

2020/10/30

 

今年3月、70歳までの就業確保を規定する改正高齢者雇用安定法が成立した。その内容は、定年の引き上げもしくは廃止を含む、仕事を継続したいと思っている高齢者に対してかなり有利な条件を企業の努力義務としたものだが、と同時に、日本もいよいよ生涯現役社会が現実化してきたと思わせられる法整備だ。

 

そんな世相を反映してか、先ごろ出版された『失敗しない定年延長 「残念なシニア」をつくらないために』(光文社新書)を開くと、そこには高齢者のみならず若年世代も見逃せない、極めてリアルな世代分析が並んでいた。中でも、否が応にも目を引いたのが「残念なシニア」という言葉だ。

 

「残念なシニア」。本当に嫌な言葉だ。
ただ本書のそれは、「残念なシニア」にならないためのアドバイスとして胸に刺さるものがあった。そのうちの幾つかを紹介していこう。

 

一言で残念なシニアと言ってもその種類は様々です。大きくは「迷惑系」「勘違い系」「無力系」の3系統に分類され、それぞれの系統でいくつかのタイプに類型化することができます。

 

60の大台を迎え、すでに現場からは遠ざかり、さりとて年金受給も覚束ない現在、前職に再度チャレンジできるか、はたまた異なる業種に迎え入れられるのか、不安要素には事欠かない。世間では少子化対策の具体例として、量産されるシニア層をして「再雇用の黄金世代」などと嘘のような言葉まで飛び出しているが、そんな言葉を真に受けるには世の中の機微を知り過ぎてしまった。
それでも挑まねばならない職場復帰に、せめて「残念なシニアにはなりたくない」と、多くのシニアが思っているに違いない。
そんな方々にこそ、本書をおすすめしたい。なぜなら本書は、残念なシニアをわかり易く解説してくれている。多分に耳が痛い話だったりするが、必ずや傾聴に値する。

 

「細かな実務を独力で担うことができないシニア」

 

近年目覚ましく進化し、かつ職場と言わず生活にまで凄い勢いで導入されつつあるPCやICT機器の操作に追いついていけない。まだ職場の端にでも在席していた間ならば、なんとか誤魔化せていたが、このコロナ禍により「リモート業務」が推奨されるようになるとたちまち笑えない状況となった。なぜなら、不慣れな操作について聞きたくとも、リモートが故に近くに若い人がいないからだ。これを「時間泥棒シニア」と呼ぶらしい。確かに、不慣れなリモート業務に後輩を(何度も)巻き込みがちだ。

 

勢い、「メールじゃ伝わらない」とか「会えないまでも話さなきゃ」などと嘯いては、ところかまわず大きな声で電話しがちだったりする。これを「騒音シニア」と呼ぶ。

 

加えて、すでに会社や昇進に何らの思惑も無く、失うものすら無い身分は、ともすれば危険な賭けに出がちだったりもする。これを「暴走シニア」と呼んでいる。
確かに、そんな危険な賭けに出た結果責任と尻ぬぐいに追われる現役はたまらないだろう。

 

とここまで読んで、言葉に詰まる方も少なくないはず。特に、暴走こそ抑えられても、慣れないPC操作に後輩の助力を乞う頻度は目を覆うばかりだし、会えないまでも電話を通しての会話に頼りがちな世代でもある。
とは言え、そんな身につまされるような類型解説は、まだ始まったばかりだ。

 

時間泥棒・騒音・暴走の3タイプは、先に挙げた“迷惑系”の残念なシニアに過ぎない。
さらに本書は、“勘違い系”の残念なシニアを、

 

「武勇伝シニア」自らの昔の経験を美化し、あたかも武勇伝のように誇らしげに語り、過去の成功体験に固執するタイプ。
「先輩面シニア」自分の上司が元部下や後輩であることをいいことに、偉ぶった態度を取るシニア。
「毒吐きシニア」60歳前に比べて給与が下がったことに文句を言い、仕事の手を抜き、それを悪い事とも思わずに開き直るシニア。

 

と、これら3タイプを、先の“迷惑系”に続く“勘違い系”の残念なシニアと解説する。

 

そして最後が、“無力系”の残念なシニア。

 

残念なシニアの3つ目の系統である無力系には、そもそも職務遂行に必要な知識や能力が足りない、または知識や能力があっても引き出せないという特徴があります。

 

それまでの2つのタイプにすら、当てはまる……と思ったものが、一つや二つではなかったのではないだろうか。
しかしそれとて、正しく自己分析をし、反省し、また努力を怠らないことで解決できることのような気がする。
しかし、この3つ目の残念なシニア分析は最も厄介かもしれない。

 

「ルーティンシニア」就労年数は長いものの、誰でも担える簡単な業務しか経験しておらず、キャリアの核となるような職業的専門性を有していないタイプ。
「暗黙知シニア」本人に熟達した知識や能力があったとしても、それを言葉で表現できない、または表現しようとしないシニア。
「抜け殻シニア」年齢を理由にチャレンジすることから逃げ、覇気がなく、与えられた職務だけをこなそうとします。

 

と、以上9タイプに細分化した3系統の残念なシニアの最後を締めくくる無気力系を総括して、

 

周囲がその存在を必要悪として受け入れてしまい、シニアが十分な役割を担っていないことに職場全体が見て見ぬふりをしてしまいがちです。
としている。

 

ここまで読むと、昨今話題になりがちなシニアの再雇用も、高度成長期の終焉時期にささやかれた「窓際族」を想い起こさせる存在に思える。
無力系は、迷惑系や勘違い系とは異なり、もはや読者にすら「手に負えない」と思わせる残念な感じが漂っている。恐らくは、最後の無力系シニアこそは、時代背景や何かとは全く無関係に、長きに渡る就業経験や加齢に忍び寄る、最も厄介なシニア病なのかもしれない。

 

などと本書の分析する残念なシニア像を自らに置き換えると、身の置き所がなくなるような懊悩に苛まれるが、だからと言って落胆する必要はない。
本書はさらに、そんなシニアを、シニア自身ではない組織や社会がいかに創り出しているか、そしてそれはいかに改善・解決していけるかを丁寧に物語ってくれている。
後は、先の3系統9タイプに陥らないように自らを律し、正しく努力すればいいだけと心強いエールを送られたような気すらする。

 

皮肉にも、先にも述べたように、すでに日本経済は右肩上がりの成長を期待できる状態ではなく、昭和後期に生まれた窓際族など許容できる状況ではなくなっている。ゆえに逆説的ではあるが、令和時代のシニア層は、「再雇用の黄金世代」として期待に応えるべき存在なのだと改めて思い知らされた。

 

文/森健次

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