BW_machida
2020/12/03
BW_machida
2020/12/03
先ごろ、いつも口を滑らせる財務大臣が、「10万円分だけ貯蓄が増えただけ……」などと給付金の効果(?)を疑問視してみせたが、いったい何をのたまわっているのか、相も変わらずピントのずれた発言だ。レジャーや外食が規制された中、空気清浄機か高騰するマスクや消毒液にでも使い切ればよかったのだろうか? 「人生100年」「老後資金3000万円は必要」などと言われる昨今、給付金を貯蓄に回せる方々こそが羨ましい限りだ。そんな中、『20年で元本300倍お金が集まる5つの原則』(光文社新書)が刊行された。果たしてその5原則とは、さっそくページを繰ってみた。
本書では、お金を「稼ぐ」「使う」「貯める」「運用する」、そして「向き合う」の五つの要素において、すべて「楽しく」できるようになるためのノウハウを伝えていく。仕事を楽しみながらお金を稼いでいく方法、稼いだお金を楽しく使えるようになるためのやりかた、いまの生活を楽しみながら、より明るい将来のためにお金をためていくコツ、誰にでもできて君の人生の武器になる投資の始め方と続け方、そして、楽しい人生を歩むためのお金との付き合いかただ。
冒頭の前書きにすら、さぞや現代を心地良く生きているであろう著者の後ろ姿を彷彿とさせるものがある。しかしそこには、「先取だ」「勝ち組だ」的な傲慢な物言いとは違った、至極当然と思わせる人生の運用法が記されていた。
ただし著者が語る人生論は、あくまでも「20年で元本300倍お金が集まる」考え方と生き方である。決して、ある種の文化人が語る「普通(?)に生きる」術ではない。だからこそ、耳を傾けてみたくなる、現代社会のリアルが見えてくる。そして著者は、それには五つの原則があるという。
原則1 お金はやりたい仕事で稼ぎなさい
そうありたいと思っている読者は私だけではないだろう。
かつてあった「終身雇用制」や「年功序列」が、事実上なくなった今、再就職やリクルーティングには抵抗感を感じなくなった。ならば、自分の夢や能力を見据えたうえで仕事を選んだほうがいい。ただ余りにも夢見がちであったり、自分の性格や能力を見誤った形だったなら、歓迎できない結果が待っているのだろうけれど。
「よい人生=よい高校+よい大学+よい会社」こんな公式は嘘だ
と思った著者は、高校にも進学せず大工見習として工務店に勤める道を選んだ。
その後、エンターテインメントの世界で仕事をしたいと一念発起して大検を受け、ビジネスとエンターテインメントを学ぶために渡米。ニューヨーク大学を卒業してユニバーサル社に入社する。
そしてマーケターとして、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンで、ハリー・ポッターエリアやミリオンエリアなどのアトラクションや、ハロウィーンやクリスマスイベントを成し遂げ極めて快適なサラリーマン人生を獲得している。
と、なかなかパンチの効いた青年時代を送っている。さらにその結果も華々しいが、それにも増して納得させられたのは、大検からニューヨーク大学卒業に至る確固たる動機だ。
周囲の大人たちが語る人生設計に疑問を持ち、進学に魅力を感じなくなることは、10代の若者には珍しくない事ではないだろうか。その後一念発起しての大検も海外留学も、サクセスストーリーの持ち主には珍しくないエピソードのような気がする。
しかし、それだけでは表題にある「元本の300倍」の資産を得ることは叶わない。
ここで注目すべきは、大検から留学に至るモチベーションが「エンターテインメントを仕事にしたい」という一事で、エンターテインメントとビジネスを学ぶためにニューヨークに留学する、そして卒業するブレなさ加減ではないだろうか。
原則2 お金は楽しく使いなさい
お金を使うことに罪悪感を抱く必要はない(中略)
楽しい人生は、楽しく過ごした一日一日の積み重ねの結果だ。「ありたい自分」と「生活」のために、いま、お金を使い続けることでつくられていく。つまり、仕事ができるようになるため、仕事以外のやりたいことをするため、生活に必要なもののため、この三つにお金を使うことは楽しい人生に欠かせないのだ。
「稼ぐ」「貯める」「増やす」を提唱する著者が、「お金を使うのは良い行為」だと言う。
まずは自分自身のより良い人生を構築するために、仕事や夢や生活にお金を費やすことは間違っていない。加えて、人々の購買意欲こそが商品に価値を与え、その価値によって商品にかかわった人々が報われるとも言っている。
確かに、経済はそのようにして回っているのだし、そうして社会が豊かになってこそ、「稼ぐ」ことや「増やす」ことが容易になる道理だ。
そして著者は、楽しく使うとはどういうことかを説明する。
君はお金を使っているとしても、ムダにしてはいないだろうか。「ありたい自分」と「生活」のため以外にお金を使っているのなら、すぐにでもやめたほうがよい。とくに「見栄」「なんとなく」「付き合い」はムダづかいの三大要因なので注意しよう。
著者が言う「楽しく使う」にムダ使いが含まれているなどとは思いもしないが、その三大要因を指摘されると耳が痛い諸兄も少なくないはず。かくいう私も、その一人だ。
君が本当に欲しいものは、他人と比較して承認欲求を満たす状態ではないはずだ。
などと言われると、グウの音も出ない。
「生活」はもとより、「ありたい自分」に使っているのか……。これは確かに、よくよく考えてみなければいけないと思わされる。
原則3 いまも将来も犠牲にせずにお金を貯めなさい
もやは死語だが、私の祖母の時代には、お金は「爪に火を灯して」貯めるものだったらしい。それほどに生活を切り詰めてまでしてすべきことだと、大人たちが口を揃えて教えていた。正直、令和を生きる私たちにはピンとこないが、確かにそんな時代があったのだろう。とは言え、今もお金を貯めるのは簡単なこととは言い難い。
貯蓄をしたいのにできないのだとしたら、理由は二つのうちいずれかのはずだ。一つは、貯蓄をするためのノウハウとモチベーションのどちらか、もしくは両方ともが不足していることだ。
貯蓄とは程遠い生活をしている私にも、貯蓄の大切さはわかっている。イザという時に、経済的に余裕のないことほど切ないものはない。だから常に頭の片隅には、「こんな事に使ってる場合じゃない。貯めておかなきゃ」という思いがある。
しかし本書を繰るうちに、そのだらしなさに対する倫理的な戒めも、人生訓的な貯蓄に対する思いも、どちらも間違っていたことがわかってきた。
「使う」なら使う。ただ、明らかな動機の元に楽しく使い。明確なビジョンに向かって、計画的に貯めていかなければならないようだ。言われてみれば当たり前の、それでいて説得力の有る言葉と現実的なノウハウが本書に並んでいる。
貯蓄は、将来の楽しみを描きながらするもの
本当に自分がやりたいと思う仕事に就き、楽しみながらお金を使って、今現在の暮らしを犠牲にすることなく将来に向けて貯蓄する。
これらが叶えば、どれほど快適な人生が送れることだろうか。そんな本書に巡り合うのが、遅きに失した観は否めないが、それでもこれからの人生に十分役立つノウハウと、モチベーションの作り方が記されている。
著者が提唱するのは、この後、「将来のために投資を始めなさい」「お金と楽しく向き合いなさい」の4・5の原則である。残る二つの原則についての話は、後編で。
文/森健次
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