「貯蓄より減蓄」&「サラリーマン脳の一日も早い成仏」で幸せな老後がやってくる
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BW_machida

2020/12/30

 

2025年、日本はその人口の約3分の1を65歳以上の人間が占めるという超高齢化社会を迎える。3分の1とは、いうまでもなく3人に一人ということである。いまだかつて、世界はそんな事態を迎えたことがなく、世界第3位の経済大国である日本をいかに変容させていくのか予断を許さない。

 

そして、今まさに3分の1に加わろうとする多くの日本人の、最大の関心事が「幸せな老後」「豊かなセカンドライフ」であることは間違いない。

 

昨年60の大台を迎えた私にとって、残り僅かかどうかわからない(すでに日本人男性の平均寿命は80歳を超えている)老後をいかに過ごすかは、もはや私一人のではなく、妻はもとより家族全員の関心事である。

 

先日『定年前、しなくていい5つのこと』(光文社新書)を手に入れた。この10年、書店に入るとこの手の定年・再雇用本や老後対策本が目に入るようになった。正直、その手の書籍に軽い嫌悪感すら覚える私だが、「これしろ、あれしろ」といったタイトルが並ぶ書棚に、圧倒的な違和感を放つ本書に強烈に惹かれた。

 

まずは表題にある「しなくていい5つのこと」。

 

それは「お金」「仕事」「夫婦」「地域社会」「趣味」と、老後を考える上で避けては通れない5つの項目について、多くの対策本で「しなければいけない」とされている事々に対して著者は、「しなくていい」と否定的に語る。

 

例えば「お金・年金」については、いざと言うときの年金積立金が、英・仏・独が2か月分にも満たないのに対して、日本のそれは4.9年分(米は3年分)と圧倒的な貯えがある。また同様書や識者の多くが、定年後の再雇用を促すのに対して、独立・起業・自営の楽しさを語る。

 

そして、多くの場合笑い話のように語られる夫婦の在り方に対しては、旅行などではなく何よりもコミュニケーションが大切。家事についても掃除・洗濯・炊事などより、ごみ袋を出しておくなどの「名も無き家事」こそが大事と具体的に教える。

 

さらに地域社会に対しては、これを「伏魔殿」と称して距離を保つことを提唱し、夫婦共通の趣味など持つ必要はないと、小気味よく否定する。

 

とはいえ、「会社」という人生の過半を過ごした社会を失った今、一人孤高を装ってみても果たしてそれが「幸せな老後」とは考え辛い。

 

本書は、そんな読者の素朴な疑問に対して、続く章で答えを出してくれる。

 

でも、これだけはやっておこう
早く”成仏”すべし

 

と、とてもセンセーショナルなテーマ設定から始まる話がそれだ。

 

“成仏”と言われると、高齢者となった身には他人ごとではない切迫感をもって響いてくるが、著者の言う成仏とは、決してこの世にお別れをする話ではない。

 

高度経済成長期にはモーレツ社員と呼ばれ、バブル期には栄養ドリンク片手に世界を股に駆け巡るビジネスマンであり、バブル崩壊後にはリストラに怯えるなど、その時代背景によってイメージこそ変わるが、それらの記憶を、培われた精神構造や恩讐を成仏させよと言っているのだ。

 

中でも、頑張った人ほど抱えがちな恩讐こそ捨てるべきだという。

 

入社以来、課長、次長、部長と昇格レースに残り、もし役員にでもなればサラリーマンとしての出世レースではほぼ勝者と考えられています。(中略)
心の中では「あいつは同期だけど、若い頃は俺の方がずっと仕事ができたんだ。あいつは上に取り入るのが上手で役員になっただけさ。それに引き換え、なんでこの俺がこんな研修に来なきゃいけないんだ!」とつぶやいているのです。

 

モーレツ社員でなかった私などは、そんな思いを抱くことはありませんが、多くの方が似たような思いを胸に秘めていたとしても全く不思議ではありません。だとしたら、それはサラリーマンとしてのラストを締めくくるにはとっても不幸なラストであり、余り良いとは言えない老後(定年後)人生の始まり方ではないだろうか。

 

別に出世しなかったからといって、敗北者というわけではありません。
そもそも会社生活が人生のすべてではないからです。

 

まさにその通り。そんなことは、言われるまでもなくわかっているのですが、それでも脳裏を掠める……それこそが恩讐であり、一日も早く”成仏”させるべき思いなのだ。

 

他に、定年前に「これだけはやっておくべきこと」として挙げられているのは、駅構内のエスカレーターを使うのをやめて階段を使ったり、少し早起きをして軽くウォーキングするなど、健康維持に留意すること。それも、一大決心をしてジムに通ったりするのではなく、気楽に始める。もしかすると、途中で何度も挫折しながらでも「いいや」ぐらいの気持ちで続けることで、少しづつ習慣化していくことが肝心らしい。

 

また、「貯金」よりも大切な「貯人」をしておくべきだとも言う。
特に自営を選んだ方にとって、何より大切なのは人間関係。仕事がうまくいくかいかないかは、その多くが人間関係によるはず。
「お金よりも大切」とさえ思えるような人間関係を作り上げられれば、それはもう豊かな人生と言っても差し支えないのではないだろうか。

 

そんな人間関係を築くうえで必要なのが、

 

自分にできることはしてあげればいいし、できないことであれば、それができる人を誰か紹介してあげる。それに対して報酬をいただけることもあるし、いただけないこともあります。しかしながら相手からの信用という財産は間違いなく得ることができるでしょう。

 

これを著者は「ギブファースト」と呼んでいる。それ以前の人生で培った「ギブアンドテイク」ではなく「ギブファースト」。そんな素敵な振る舞いが許されるのも、会社人ではなくなった老後だからではないだろうか。

 

加えて著者は、さらなる老後に向けて、「貯蓄よりも減蓄」と、お金ではない書物や何かの「残したいもの」を、家族や知人などに引き取ってもらうなどして始末していくことや、介護資金の準備など、いよいよ迎える人生の終末に向けての準備と心づもりを語っている。

 

『定年前、しなくていい5つのこと』(光文社新書)は、来るべき老後に向けて、ただ老け込むのではなく、新たに心構えをするべく、前向きな提案に満ちたとても具体的なポジティブ本である。

 

文/森健次

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