クスッと笑えておとなの週末にぴったりのグルメ本。書いているのは井之頭五郎?
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BW_machida

2021/01/18

 

本書のタイトルは『面食い』と書いて「ジャケ食い」と読みます。ドラマ『孤独のグルメ』の原作者・久住昌之さんが、試聴することなくジャケットのビジュアルだけでレコードを購入する“ジャケ買い”から産んだ造語です。ネットや雑誌などで前情報を得ることなく、店の佇まい・雰囲気、さらにこれまでの経験と勘を頼りに入店。そしておいしい店、楽しい店、心に残る何かのある店なら入って正解、大満足。そうでなければ……次に生かそう! という勝負的な外食法になります。

 

さて、この『面食い』に収録されている久住さんのエピソードの多くが『おとなの週末』に連載されているエッセイ「勝負の店」からのものです。『おとなの週末』は、独自の視点・判断基準で選ぶ「○○を食べるなら、ここがオススメ!」「この街に行くなら〇〇で食べよう」的な店舗情報が満載の特集記事をメインとした雑誌。四面楚歌とは言いませんが、「面食い」の主張とは正反対に近い情報に囲まれての連載になります。いろいろな意見が掲載されるのが雑誌だから、と言ってしまえばそれまでですが、『おとなの週末』だからこそ、久住さんに「面食い」につながる連載をお願いしています。それは、料理のおいしさ、あるいはその店の良さはひと皿では決まらない、ということも知ってもらいたいからです。

 

本書『面食い』の中には、「焼鳥屋なのに『とりかご』という店名はどうだ。鳥かごの小鳥を焼いて食べちゃうのか」(「開けた引き戸が閉まらない店」)や「(中略)準備中の店の提灯に(中略)「エレキ」と太い字で書いてある。エレキ。なんだろう」(「桶の上下音で会話が中断の店」)なんて疑問を抱いてみたり。

 

「目の前のカウンターの上に手書きで『ガムシロップ』と書かれた容器が立っていることだった。(中略)キムチラーメンがあまりに辛くて、食べられない場合、ガムシロップを入れろというのだろうか」(「走るタクシーから一瞬見えた店」)と想像してみたり。

 

「『お客が来ないから……』とか言っている。『来ない』は『キない』と発音した」(「前は来たけど最近はキない店」)、「(テレビを)見ているご主人と『あぁ!』と同じところで笑ってしまい(中略)」(「バスをすぐさま途中下車した店」)などと、店の方とのやり取りにほっと和んだり。

 

それらは、味そのものの“旨味”ではない、“楽し味”とでもいうべきもので、ひと皿のおいしさを伝えることを主とした店紹介の原稿ではほとんど触れられない部分です。しかし、料理をおいしくする秘伝の調味料であり、それらを自分なりに味わうことも外食の醍醐味なのです。そして久住さんの原稿には、この“楽し味”の味わい方、それゆえのおいしさが随所に散りばめられているのです。読者の皆さんにその味も知ってもらいたくて、『おとなの週末』で連載をしてもらっています。

 

クスっとしたり、あるあると頷いたり、そんなことあるの!と驚いたり……久住シェフによる“楽し味”が溢れた『面(ジャケ)食い』。グルメを自負している人にこそ手にとってほしい一冊です。そして本書を参考に、お店の様々な部分に思いを巡らせて、ひと皿までの、ひと皿のあとのストーリーも存分に味わってみてください。これまでとは違った満腹感を得られるはずです。

 

『おとなの週末』編集部 武内慎司

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