『リズム・マム・キル』著者新刊エッセイ 北原真理  
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BW_machida

2021/11/24

『リズム・マム・キル』×猫

 

昔、息子が猫を拾った。ハロウィンにやってきた南瓜色の猫は、息子の“む”をとって“むーちゃん”と名づけられた。死にかけたヨボヨボの老猫むーちゃんは、介護の甲斐あって持ち直したのだが、持ち直してみれば、萎らしかった態度の裏に強烈な毒母が隠れていたことが判明して、北原家一同、愕然としたのであった。

 

殆ど寝たきりのこの猫、自分の何倍も大きい犬を顎で使うのである。我家にはマイクという気の良いボーダー・コリーの兄ちゃんがいるのだが、喉が渇けばにゃんと鳴いてマイクに私を呼びに行かせ、粗相をすればにゃんと鳴いて私を引っ張って来させて尻を拭かせる。腹が減れば濁声で威嚇してマイクのおやつを奪う。最初の頃の優〜しくマイクの頭を舐めていた母性溢れる姿はどこへやら、いつの間にか、毒母と逆らえぬ息子のような関係が二匹にはできあがっていて、これが人間ならエライコトだと私は心底、思ったものである。

 

己の欲求を叶えるための道具として息子を使うエゴイスティックな母と、畏縮して言いなりになってしまった心優しい息子の図。世の中には、きっと、こういう支配・被支配の関係で、心身をすり減らしている子供達もいるに違いない。

 

『リズム・マム・キル』の登場人物達も、母という名の十字架を背負わされ、虐げられてきた者達だ。主人公のるかは、それでも人生に抗い、立ち向かう。弱く思慮に欠け、ときに残酷でさえあるが、十二歳の少女なりの筋は通す。

 

親子間の確執は根深い。濃く長い絆ゆえに、時に、殺人にも至る惨事を引き起こす。子供は、母というダンジョンに迷い込んでしまったら、早めに脱出を図った方がよいのである。でないと『リズム・マム・キル』の世界に陥る。

 

さて、もうすぐ、むーちゃんの命日がやってくる。ちなみに、母猫は己の仔猫を喰らうこともあるらしい。にゃ、にゃんということだ。

 

リズム・マム・キル
北原真理/著

 

「お前さ、本当はママ、嫌いなんだろう。殺してやろうか」
少女×殺し屋。出会うはずのなかった〈虐げられた子供たち〉が出会い、烈しく歪な〈母を殺す〉戦いがはじまる。熱きノンストップ・エンターテイメント!

 

北原真理(きたはら・まり)
神奈川県生まれ。東京都在住。2018年、『沸点桜 ボイルドフラワー』にて第21回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞し、デビュー。近著に『紅子』がある。

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