BW_machida
2021/02/24
BW_machida
2021/02/24
日々の生活のやりくり、税金の支払い、家の購入、子育て、あらゆる面でお金の問題は付きまとう。
これほど私たちを悩ませるお金の正体とは何なのか?
もったいぶらずに答えを先に言ってしまえば、お金の正体とは「共同幻想」です。実体のない、幻にすぎないんですね。
本書の冒頭で小飼氏はこのような驚きの見解を述べる。
お金自体は、紙幣やコインの形で実在している。けれどもそれらは本来、ただの紙切れやちょっと光っている丸いものでしかない。それがモノやサービスと交換することができるのは考えてみれば不思議なことだ。小飼氏は、お金がお金として価値を持つのは「この紙切れには1000円の価値がある」という幻想を人々が信じているからだと話す。
小飼氏はこのように、私たちが持っている「お金」観に次々とゆさぶりをかけ、お金と世界の仕組みを解き明かしていくが、そもそも小飼氏がこうしたお金に対する考えを深めることになったのは、小飼氏の実家が全焼したことに始まる。
アメリカ留学中だった小飼氏は、この火災をきっかけに実家再建のために日本にとどまらなければいけなくなった。あれこれの手続きや再建のための金の工面に奔走することとなる中で、小飼氏はそれまでにない気付きを得ていく。
一連の騒動で実感したのは、借金の意味でした。有利な条件で借金をしようとすれば、とにかく信用が物を言う。信用がなければ借金はできないし、借金ができるということはそれだけの信用を持っていることの証であるのだと。
さらに、家を再建する傍ら、日銭を稼がねばと始めた技術翻訳の仕事のつながりで起業したことで、お金の見方を一変させるものに出会う。
それが「バランスシート」、すなわち複式帳簿だ。
複式簿記の何がそんなにすごいのか。小飼氏は複式簿記の中で最も重要な役割を果たしているバランスシートを取り上げて説明する。
バランスシートの左側に書かれているのは「資産」です。資産とは何かと言えば、自分が使えるもの、使っていいものを指します。「自分の」ではなく、「自分が使える」であることに注意してください。
右側に書かれているのは、上が「負債」、下が「資本」です(会計用語としては「純資産」が使われますが、本書では「資本」で統一することにします)。
負債というのは、他人から借りているもの、要は借金のこと。
資本というのは、「自分自身のもの」です。
こうして使えるお金と、自分のお金と、借りているお金を整理することで、ビジネスの複雑なお金のやり取りがクリアに見えるようになるというのだ。また、ここで注目していただきたいのは、収入として100万円を得た場合でも、借金として100万円を得た場合でも同じように、右側にお金が計上されている点だ。
先ほど、資産とは「自分が使えるもの」だと書きましたが、借金も含めて自分の資産なんですね。人によっては驚くかもしれません。親からの「借金はよくないもの」と教えられて育ったという人もいるでしょうし、小学校や中学校では借金も資産の内などとは教わりませんから。
借金も財産の一種だというのは、小飼氏が実家の再建で気づいたことと同じだ。バランスシートはそのことを視覚的に示し、自分のお金と他人のお金の区別を明確にしたことは、より借金を行いやすくした。そしてお金を借りることで自分の手持ち以上のことができるようになり、これが資本主義の原点となったという。
今の世の中は、ほとんどの人がお金の心配をしないで済むようにはなっていません。僕はこんな世の中は間違っていると思っていますし、今よりマシにするためのアイデアを提供しているつもりですが、現実はよりいっそう厳しい状況になっています。
このように語る小飼氏は、先のバランスシートを活用した物事の見方を始め、本書でお金との付き合い方に新しい知見を示している。
例えば、「なぜ経済成長が起こるのか?」ということ、あるいはより身近な「持ち家を買うべきか、賃貸に住むべきか?」という問題、あるいは「奨学金を借りて大学に行くのは得か損か?」をバランスシートで考えることで答えが見えてくることを教える。また、お金に悩まされる世の中で生きていくためには「株よりも自分自身に投資すべき」という発想の転換を示してもいる。
他にも、「非効率な会社がつぶれるのはよいこと」、「裁量労働制は『定額働かせ放題』」、「賃上げ要求は、金持ちの思うつぼ」、「『日本株式会社』の配当をもらおう」など、投資家や経営者として活躍してきた小飼氏流のユニークなアイデアが全5章の中に凝縮されている。
小飼氏は、言う。今の世の中はお金にまつわるルールの出来が悪くつまらない世の中になってしまっている。そして、それは変わっていかなければならないと。
そのためには、今のお金のルールがどうなっているかを理解し、お金と言う共同幻想をバージョンアップしていきましょう。そして、ダメなルールには親指を下に向けてブーイングをし、言ってやるのです。
「資本主義、本気出せ」と。
写真・文/藤沢緑彩
イラスト/村山宇希
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