BW_machida
2021/02/27
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2021/02/27
『俺と師匠とブルーボーイとストリッパー』
KADOKAWA
「今回は4人の人物の空間を書くという初めての試みに挑戦。とても勉強になりました」
新作『俺と師匠とブルーボーイとストリッパー』について桜木紫乃さんは開口一番、そうにこやかに言いました。
「タイトル、いいでしょう! 大竹まことさんのラジオ番組に出させていただいたときに、大竹さんが“俺、20歳のときに地方巡業で釧路に行ったことがあるんだよ。俺と師匠とブルーボーイとストリッパーで”とおっしゃって。もう速攻で “大竹さん、それ、小説のタイトルになってます! いただいてもいいですか?”と言いました。しかも、大竹さんがいらしたのが(’11年に書いた)『ラブレス』の舞台になったキャバレー銀の目! 運命を感じました」
母と離れ、北国のキャバレーで働きながら1人で暮らす20歳の章介は、日々、流れるままに生きていました。手元に父の骨壺がありますが、博打うちで母と自分を苦しめた父に章介は何の感情も抱いていません。
年末、「世界的に有名なマジシャン」「シャンソン界の大御所」「今世紀最大級の踊り子」と称される3人が、章介が働く店のショーに出演することになったのですが、実際にやってきたのは売り文句とは正反対のどん底芸人ばかり。3人は章介が住む寮という名のボロアパートに泊まることになります。彼らと暮らしながら、章介の日常には光が差し込み、温かさを増していくのでした。
「章介のイメージを大竹さんから切り離すのに1年くらいかかりました。ヒモをするなどかぶったところもありますが(笑)、大竹さんと最も遠い人物として章介ができあがったとき、書けると思いました。
4人と知り合うことができて楽しかったし、いろいろなことも教わりました。彼らを追いかけながら書いている間、“笑いながら生きていかんと!”とずっと言われ続けました。それもあって、読者の方が明るい光を見て終われるようにしたくて、私の作品らしくな
いラストになりました」
桜木さんは満面の笑みを浮かべ、楽しそうに続けます。
「結局、人は明るいものが本質的に好きで、笑っている人が好きだと改めて思いました。でも、ボーっとしている自分を誰かが笑わせてくれることはない。人は笑うために努力をするんです。笑うには体力もいりますしね。
前から、私の中にはひょうきんな黄色い血が流れていると自分では思っているのですが(笑)、この作品には私の内側の面白いところが少しはにじみ出ているかもしれません」
前作『家族じまい』ではやはり北海道を舞台にリアルな家族を描き、この作品では擬似家族を描いた桜木さん。
「2作で私が思う家族の形のバランスが取れました。自分を産んでくれた場所がリアル家族なら、自分で自分を産んだ場所、自覚的に生き始めたときにそばにいる人たちもまた家族。今後も家族の話を、手を替え品を替えて書いていくと思います。私にとっていちばんの謎が家族で、その謎を解きたいのです」
どんな人生も逃げずに受け止め、生き抜いていけばきっといいことがある──。優しさと温もりに包まれる、桜木ワールド全開の人生の応援歌です。
PROFILE
さくらぎ・しの◎’65年、北海道生まれ。’02年「雪虫」で第82回オール讀物新人賞を受賞し、’07年に同作を収録した単行本『氷平線』を出版。’13年『ラブレス』で第19回島清恋愛文学賞、『ホテルローヤル』で第149回直木三十五賞、’20年『家族じまい』で第15回中央公論文芸賞を受賞。
聞き手/品川裕香
しながわ・ゆか◎フリー編集者・教育ジャーナリスト。’03年より『女性自身』の書評欄担当。著書は「若い人に贈る読書のすすめ2014」(読書推進運動協議会)の一冊に選ばれた『「働く」ために必要なこと』(筑摩書房)ほか多数。
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