小山田浩子さんの世界にひたれる、14作品の中短編を収録した1冊|最新刊『小島』
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2021/05/01

写真提供/新潮社

 

人間、動物や植物などを細密画のように描写しながら、読み手を少し捻じれた世界に連れて行く作風が国内外で高く評価される小山田浩子さん。新作について「これまで書いてきた中短編をまとめたが1冊になるとは思っていなかった」と語ります。読書する歓びを味わえる1冊です。

 

読んでいる人の経験と小説が一つになって、新しいモノが自然に生まれると思う

 

『小島』
新潮社

 

 小山田浩子さんは情景を緻密に描くリアルさと、読み進めるうちに異界に連れて行かれる巧みな筆致が魅力の芥川賞作家です。

 

 新作『小島』は、中編と短編を収録した作品集です。

 

 表題作は、豪雨で被災した土地にボランティアに行った女性の話。“私”は2カ月ぶりに被災地でボランティアをするため、ボランティアバスに乗り込みます。被災地のボランティアセンターに到着した“私”は、注意事項を聞きながら、大雨が降った日のこと、最初にボランティアに来たのは発生から大体1カ月後だったことなどを思い出します。「卵男」は小説家である“私”が韓国の市場で“壁のように卵を高く積んで運ぶ男”を見たときの話です。全部で14本の作品が収録されています。

 

「1冊にまとめる予定で書いていたわけではないんです。ですが、いざまとめてみると、自分でも驚くほど内容が詰まっていました。最初から1冊にまとめる計画のもと執筆していたら、もう少し緩急がついたかもしれません(笑)」

 

 どの作品も、人間、動物や植物、風景などの情報が、五感を通して入ってくるとおりに、丁寧に言葉に置き換えられています。

 

「過去の作品でも動物や植物など生き物のことを詳細に描いて、それが私の特徴であるという感想をよくいただきました。自分としては動物や植物が好きだから見たままに書いていただけで意識はしていなかったんですが、そういう声を聞いて、“自分の強みはそこにあるのかも”と気づきました。それで今回収録した作品は“生き物のことなど、描写することをより楽しもう”と意識して書いたんです。そう意識して書いたら、思いのほかうまく書けたような気もしています。親子の関係や被災地のことなど書いていることは重いかもしれないのですが、情景描写のところがフラットに読めるため、全体的には少し和らいだ感じになったのではと思っています」

 

 登場人物が思考したり思い出したりするときも、脳内に浮かぶさまざまな事柄が浮かんだ順に細やかに描写されます。そのため、改行がとても少なく、会話文も1行の中で続くという独特の文体です。

 

「記憶と思考を言語化するとき、それぞれを区切りたくないんです。
 出来事も会話も時系列に端的に並んだ文章が読みやすいという前提があると思います。ですが、生きている人間としての感覚は、人と喋っているときに違うことを思い出すし、喫茶店で外の景色を見ているときに別の席で話されていることが耳に入ってきたりする。それが自然なことで、私はそれをそのまま書きたい。そうやって書かれたことが読んでいる人の思考に代入されると、その人の経験と小説が一つになって新しいモノが自然に生まれると思うんです。
 私は現実に起こったことという意味だけではなく、本当のことを書きたいと思っています。伏線が鮮やかに回収される小説も素晴らしいけれど、本当にこの世にあって、自分と読者との間にある地続きなものを書きたいんです。現実に起こりそうにないことを書いて
いるとしても、私は本当のことだと思って書いています(笑)」

 

 どの作品もいろんな角度から脳内を刺激します。ページをめくるごとに自分自身の記憶と連動したり、想像が膨らんだりするのが面白くてたまりません。これぞ読書の愉楽!

 

PROFILE
おやまだ・ひろこ◎’83年、広島県生まれ。会社員や派遣社員を経て、24歳で結婚。夫の勧めで小説を書き始め、’10年「工場」で第42回新潮新人賞を受賞しデビュー。’13年、初の著書『工場』が第26回三島由紀夫賞候補となる。同年、同書で第30回織田作之助賞、’14年「穴」で第150回芥川龍之介賞を受賞。

 

聞き手/品川裕香
しながわ・ゆか◎フリー編集者・教育ジャーナリスト。’03年より『女性自身』の書評欄担当。著書は「若い人に贈る読書のすすめ2014」(読書推進運動協議会)の一冊に選ばれた『「働く」ために必要なこと』(筑摩書房)ほか多数。

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