コロナ禍が女性たちに与えた「負」の影響とは? 弱く、忘れられがちな人々の声に耳を傾けよ
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BW_machida

2021/10/15

 

コロナウイルスの影響を受けて、私たちの生活は変化を余儀なくされた。なかでも苦境に立たされているのがシングルマザーやエッセンシャルワーカーとして働く女性、ステイホームすることができない女性たちだ。女性の視点からコロナ禍を振りかる本書は、2020年2月下旬、全国での一斉休校が決められた時点にまでさかのぼり、女性たちを襲う苦難の状況を取りあげる。

 

冒頭に描かれるのは、コロナによって仕事と家を失った女性の姿だ。昼はショッピングモールのベンチで過ごし、夜は明かりがあるところを探してさまよう。放浪生活は一カ月にもおよび、死に場所を求めて歩き続けた彼女は駅で声をかけてきたホームレス支援団体のサポートで生活保護を受給した。「その苦境はコロナ以前から始まっていたが、コロナはギリギリの状態で何とか生き延びてきた彼女を路上へ押し出す最後の一手になった」と、著者は述べる。

 

コロナで真っ先にダメージを受けたのはサービス業、飲食業だろう。こうした業種はシフトが組みやすいことから、もともとパートやアルバイトなど非正規の形態でいろんな働きかたをする人を受け入れやすかった。しかし「短時間勤務だからといって家計補助的に働いているとは限ら」ないと著者は指摘する。

 

「シングルマザーや親を介護中の人など、家族のケアを担っており、フルタイムの仕事ができず、短時間パートで働いている人がいる。年金だけでは生活が成り立たずパートで補っている高齢者や病気や障害がありフルタイムで働けない人、一カ所の収入だけでは足らず、複数の仕事を掛け持ちする人など、非正規で働く人の中にはさまざまな事情を抱えた人が少なくない。」

 

こうした事情を抱える女性たちにコロナ禍が与えた負の影響がほかにもある。「ステイホーム」だ。突然の一斉休校で子育て中の母親は家事負担をいっそう強いられることとなった。夫婦ともにフルタイムで働いている家庭では母親が家にいることになり、在宅勤務中でも家に子どもがいるから仕事にならない。緊急事態宣言下では、医療関係者の子どもへの不当な差別も報道された。

 

著者は「さまざまな局面で女性のケア負担がこれまでにないほど高まっている」と述べたうえで、コロナ禍で女性の自殺率が急増している点にも注目する。本書によると「死にたい」と感じる理由は男女で大きく異なるという。男性の場合は、仕事の不調や金銭的な要因であるのに対し、女性は身近な人との人間関係の不和などが原因になることが多いらしい。

 

「女性たちが精神的に苦境に立たされている背景には、コロナ禍により、家族以外の人との繋がりが希薄になってしまったことがある。家族との関係がうまくいっていない人はさらに追い詰められ、一人暮らしかつ無職で他人との交わりがほとんどない人はさらに孤立していく。」

 

これまで他者との関係性のなかでストレスを解消してきた女性たちからコロナは人と関わる時間を奪ってしまった。こうした状況を踏まえ、積極的に支援に取り組んでいる自治体もある。多くの課題が残されているなか、いま問われているのは「子どもの有無にかかわらず、女性の生涯にわたる息の長い支援」だ。本書を通して、弱く忘れられがちな人々の声に耳を傾けてみてほしい。

馬場紀衣(ばばいおり)

馬場紀衣(ばばいおり)

文筆家。ライター。東京都出身。4歳からバレエを習い始め、12歳で単身留学。国内外の大学で哲学、心理学、宗教学といった学問を横断し、帰国。現在は、本やアートを題材にしたコラムやレビューを執筆している。舞踊、演劇、すべての身体表現を愛するライターでもある。
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