肥満人口は40年で3倍! 19億人以上の成人が太り過ぎ――死亡リスクを減らすために考えたいこと
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ryomiyagi

2021/12/27

 

タイトルの副題にもなっている糖質の過剰摂取は血栓のリスクを高める要因になる。糖質過剰摂取による高血糖は免疫力を低下させ、炎症を促進するからだ。新型コロナウイルス感染の重症化の多くは血栓症によるもの。糖質過剰症候群の代表である糖尿病や肥満の人に重症者や死亡者の割合が高いのも頷ける。

 

「高血糖は、新型コロナウイルスのライフサイクル、病気の進行、症状の提示の各主要な段階に関連している。具体的には、ブドウ糖の上昇は、ウイルスが肺の免疫防御システムの最初のレベルを弱めて回避し、人間のアンギオテンシン変換酵素II(ACE2)受容体というものに結合して細胞に入り、ウイルスの複製を加速するための理想的な条件を提供する。さらに細胞内で細胞死を増加させ、肺の炎症反応を誘発し、すでに弱まっている免疫系を圧倒し、全身感染、炎症、細胞損傷、サイトカインストーム、血栓症の雪崩を引き起こす。」

 

糖質過剰摂取はさまざまな症状と疾患をいくつも同時に合併することが分かっている。新型コロナウイルスが細胞に侵入すると、細胞が乗っ取られて細胞の代謝が変化する。それはまるで悪質ながん細胞によく似ている。

 

とはいえ、生きていくためには食事をしなくてはならない。だからこそ自分の体内に入れるものには気を配りたい。もし病気のときや食欲が低下しているときに、お粥や糖質たっぷりの冷たいゼリー、アイスを口にしているのなら食べものを見直す必要があるかもしれない。血糖値を上げすぎることは、体内の状態を悪化させる可能性があるからだ。「よい食事は感染の予防、感染時の防御にもなるし、悪い食事は大炎上を巻き起こす」ことになりかねない。

 

となると気になるのが肥満の問題だ。本書によれば、この40年で肥満人口は3倍に増え、19億人以上の成人が太り過ぎの状態にあるという。現在では低体重で亡くなるよりも肥満で死ぬことのほうが多いのだ。肥満による年間死者数と新型コロナに感染して亡くなる人を比較すると、両者のあいだにそれほどの差はないという。マスクでいくらウイルスの侵入を防いでも、糖質の侵入を許すどころか積極的に招き入れていれば、それだけ死亡リスクは高まる。

 

本書ではさらに糖尿病と腎疾患との関わりや糖質と精神疾患のつながり、糖化と酸化の有害性など糖質過剰摂取の危険性が次々と挙げられていく。専門的で難しく感じる箇所もあるが、じっくり読むとより理解が深まるので注釈や資料を参考にしながら読み進めてみてほしい。

 

現代医療は食事を軽視し過ぎている、食事を見直さずに薬ばかり飲んでいては病気が進行してしまう、著者はそう指摘する。自分の体の根本を作る食事を見直すことは、もっとも安価ですぐに実行できる最良の治療法、健康法かもしれない。

 


肥満・糖尿病の人はなぜ新型コロナに弱いのか
清水泰行/著

馬場紀衣(ばばいおり)

馬場紀衣(ばばいおり)

文筆家。ライター。東京都出身。4歳からバレエを習い始め、12歳で単身留学。国内外の大学で哲学、心理学、宗教学といった学問を横断し、帰国。現在は、本やアートを題材にしたコラムやレビューを執筆している。舞踊、演劇、すべての身体表現を愛するライターでもある。
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