リーダー力よりキャプテンシー!ジャイアントキリングを起こす組織の作り方
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2022/05/11

『相談される力』光文社
廣瀬俊郎/著

 

連日のニュースショーが伝えるウクライナの悲劇。そこには、襲い来る大国の狂気から逃げ惑う市民の姿があり、泣き叫ぶ幼子の姿がある。まさかこんなシーンを、21世紀にもなった今目にすることになるなどと、いったい誰が想像し得ただろう。少なくとも私は、歴史上に見る独裁者のなんたるかを、こうして日々刻々と目の当たりにすることなど、考えたこともなかった。

 

そこに至る道すがらには、数々の政治的な過誤があったに違いない。国と国の思惑が、互いの掲げる未来図が、決して一致することなく譲り合う余地すらなくしたときに軍隊という暴力装置が発動する。それがいかに無残な結果をもたらすのかを、私たちは日夜、リアルタイムで目にし耳にしている。そんな時代だからこそ、国家国民を率いるリーダー像を、世界の人々は今一度思い返しているに違いない。

 

先日『相談される力』(光文社)が刊行された。著者は、2019年に日本で開催されたラグビーワールドカップで、その清々しくも雄々しい戦いぶりで、世界中のラグビーファンを唸らせ、かつ熱狂させた日本代表チームの前キャプテンを務めた廣瀬俊郎氏だ。まるで巨人のように立ちふさがる世界の強豪チームを前に、幾度となくジャイアントキリングを達成して見せ、さらに美しく、常に清々しく戦った日本代表チームを、そこまで牽引してきたであろう卓越したキャプテンシーの持ち主が何を語るのか、あの熱狂の傍観者だった私は知ってみたいと思った。

 

ここで言うリーダーとは、一番上に立って引っ張っていく人です。それに対してキャプテンは、「現場のリーダー」ではあるけれど上の人と下の人に挟まれていて、そのなかでどうやってチームを良い方向へ導いていけるかを考えます。ラグビーチームなら、上の人は「監督」で下の人は「選手たち」になります。
キャプテンと言えばスポーツチームが連想されますが、飛行機や船にもキャプテンがいます。現場を引っ張っていく立場ですが、仲間のひとりでもあります。ですから、「この人と一緒にやっていこう」とか「仲間と力を合わせてやっていこう」と思ってもらえることが大事です。一体感が生まれることで、チームがまとまっていくからです。
企業で中間管理職にある方は、上司と部下の間に挟まれてどうやって組織を運営したらいいのか、頭を悩ませているかもしれません。新しくプロジェクトを立ち上げることになり、そのリーダーに指名されたときに、周りを見渡すと知り合いがいない。まったく知らない仲間と、これからどうやって仕事していったらいいのかーーーそんな場面で、キャプテンが発揮するキャプテンシーが役立つのではと思います。

 

キャプテンとリーダーの違いなど、特に考えたこともなかったが、確かに両者が負うものには違いがある。著者が言うように、キャプテンとは、あくまでも現場のリーダーであり、それ以上の存在ではない。ただし、著者のように、極めて高度な戦術とスキルが要求される現場のリーダーには、それ以上の資質が認められるように思う。スポーツにおけるチーム単位ではなく、もっと大きな組織や国家ともなれば、求められる決断力は計り知れない。

 

先日私は、我々市井の人間などには想像することもできない、途轍もなく大きく厳しい決断を下したリーダーの姿を見た。男の名前は、ウォロデミル・ゼレンスキー。現ウクライナ大統領である。男は、迫りくる砲声と、夥しい避難民を前に徹底抗戦を宣言した。世界は、男の決断に喝采を送るとともに、彼と彼の愛するウクライナ国民の多くが今後被るであろう災悪に思いを馳せては疑問と否定的な意見を遠慮しながら並べ立てた。

 

それにしても、まさか人生も晩年に差し掛かったこの歳になって。インターネットを駆使すれば、居間で寛いだまま世界各地のLIVE映像を満喫できる21世紀になって、まさかLIVEで人間が虐殺される現場をつぶさにしようとは思いもよらなかった。それにつけても、そんな殺戮の現場で、国家の国民の生死を左右する決断を迫られるとは、リーダーとはかくも凄絶な覚悟を必要とするものなのかと、我が国の維持と懐柔にのみご執心の方々を思い、その違いの余りのギャップに大きくため息をついた。

 

エディさんに叱責された選手がいたら、さりげなく声をかけたり。立川理道選手が当時を振り返ってくれました。
「廣瀬さんはエディさんの気持ちになって、選手に期待しているから厳しい言葉も使うんだ、それで沈んでしまうのか、もう一回跳ねあがってくるのかを試されているから、と言われましたね。エディさんに言われたままだったら、『またミスをしたらどうしよう』とか『このチームに居たくない。練習したくない』と思ってしまいそうなところで、廣瀬さんの声掛けは『また明日から頑張ろう』と思えるきっかけを与えてくれました。実際に廣瀬さんから声をかけられた選手が、次の日の練習で一生懸命やっている姿を、何度も見たことがあります」
いわゆる「ダメ出し」をためらわないエディさんのようなタイプの人が、あなたの周りにもいるかもしれません。言われた側の受け止め方は、人それぞれでしょう。「なにくそ!」と奮起する人がいれば、モチベーションを削られてしまうような人もいるのでは。とくに後者のタイプは、自分を出すのが得意ではない傾向があるので、ポジティブな声掛けを心掛けたいですね。

 

上司から厳しく叱責されたり、親しい人から激しく罵倒されたりと、人生には追い詰められるシーンが何度となく訪れます。その時、そんな自分を自分一人で立て直すのはかなり難しい作業です。さらに、そんな自分を立て直そうと、自分自身に厳しくすればしたで、思いもよらぬ破壊的な結論を導き出す傾向があるように思います。そんな時、著者のように正しく助言をしてくれる友人がいたら何よりですが、そうでなくとも、愚痴がこぼせたり、泣き言を言えたりする友人がいてくれたなら、そんな絶望的な瞬間をどれほど和らげてくれることでしょう。そんな友人があなたにはいますか? 私は、本書を読みながら、そんな友人の顔を浮かべては消し、消しては浮かべを繰り返していました。

 

とても正視できないような映像が流れ、受け入れがたい理不尽が横行する様を目の当たりにさせられる昨今、『相談される力』(光文社)は、「そうだ、これが私たちの住む世界だ」とほっとさせられたり、教えられたりする一冊だった。ただ忘れてならないのは、そんな本書の著者が、あのラグビー日本代表チームを率いた前キャプテン・廣瀬俊郎氏だということ。同氏が実践したそれは、後に世界中を熱狂させるほどのムーブメントを起こしたのだ。そんな著者の言葉には、優しい語り口調に隠された明確なヒントと適切なアドバイスがちりばめられている。

 

文/森健次

 

『相談される力』光文社
廣瀬俊郎/著

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