日本の自動運転・開発戦略(1)−−−−誰が開発を先導するのか
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100年に一度の変革期

 

現在、自動車産業は100年に一度といわれる変革期を迎えています。その変革を突き動かしている大きな要因の一つは自動運転技術です。

 

そして、このコラムで綴ってきた、『日本のものづくりを支えた ファナックとインテルの戦略』に基づいて描いてきた工作機械産業におけるCNC(コンピュータ数値制御)装置の革新史は、自動運転開発戦略の策定に貴重な教訓を与えてくれるといえるでしょう。

 

自動運転技術は、車の走行環境をセンサー等で俊敏に察知したうえで、それらの情報に基づいて車を自動制御するものです。それによって、安全性、操作性や快適性等を向上させ、車の価値を大きく高めることを狙いとしています。

 

この技術を巡って、トヨタや日産などの完成車メーカーはいうまでもなく、グーグルやウーバー等のIT関連企業が、異業種から参入しようとして激しい競争を繰り広げています。もちろん、自動運転技術は日本の自動車産業の将来に影響を及ぼす主戦場の一つであることは間違いなく、今後の開発戦略が重要となります。

 

ここで、自動運転の仕組みを簡単に確認しておきましょう。

 

自動運転では、外部の様々な状況をセンシングして歩行者や車の状況を認識し、それに基づいて車の適応行動を判断し、車本体の駆動系を含むパワートレインに対してハンドルやブレーキ、アクセル等の制御指示を出すという一連の動作を高速で繰り返すものです。

 

したがって、センシング、認識、判断という一連の動作を行う自動運転装置側と車本体のパワートレイン側との間に、正確で緊密なコミュニケーションが必要となります。

 

つまり自動運転システムは、パワートレインを含む車本体と自動運転装置の二つのユニットから構成されていて、そのユニット間を制御信号で高速でやりとりすることになります。

 

ささやかな違いが大きな影響を与える

 

さて、ここまでの記述を読んで、「何かと似ている」と感じた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 

そうです。このコラムで触れてきた、CNC装置と工作機械本体の関係と同じようだと感じたのではないでしょうか。

 

CNC装置が工作機械を自動制御するのと同様に、自動運転装置もまた、車を自動制御するものです。

 

抽象度を上げて考えてみると、CNC装置と工作機械本体の関係は、自動運転装置と車本体の関係と同じものだといっていいでしょう。

 

CNC装置も自動運転装置も、完成品に付加してその価値を一層高める補完製品という点では同じで、本体との間には補完的な関係が成立しています。

 

したがって、そこには共通した力学が働く可能性が高いというわけです。

 

ここで、工作機械産業で日米の盛衰を分けた根本原因をあらためて思い起こしていただきたい。

 

そこには、開発を主導する企業特性の違いと、それがもたらす開発インセンティブの違いがありました。

 

日本の場合、他産業から参入してきたファナック等のCNC専業メーカーが主導しましたが、彼らは特定の工作機械に最適化するよりも、できるだけ多くの工作機械メーカーに販売したいという開発インセンティブを持つために、モジュール化と標準化を促進し、MPUの採用にも積極的でした。

 

それが、日本の工作機械産業の成長に大きく貢献したのです。

 

CNC装置の革新史から見えてくることの一つは、産業の初期に誰が開発を先導するのかという、一見ささやかな違いが、実はその後の産業進化の軌跡に大きな影響を与えるということです。

 

ということは、産業は異なるものの、自動運転開発戦略でも、同様の論理が働くと考えられるのではないでしょうか。

 

次回のコラムでは、では、自動運転装置の開発は、いったい誰が主導権を握るのか、そのことについて考えてみたいと思います。

 

※以上、『日本のものづくりを支えた ファナックとインテルの戦略』(柴田友厚著、光文社新書)から抜粋し、一部改変してお届けしました。

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柴田友厚(しばたともあつ)

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