21世紀を拓くカギ「量子コンピューター」がラプラスの悪魔の正体を暴く!?|冨島佑允『物理学の野望』
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ryomiyagi

2022/06/08

ある時点における、あらゆる力学的・物理的な作用を把握・解析する能力があれば、未来を含むすべての運動を確定的に知ることができるという超人的能力を、科学者たちは「ラプラスの悪魔」と呼ぶ。それは握り込んだ幾つかの小石を打ち捨てたとき、その一つ一つの運動と結果を予測し得る能力だ。枝から落ちる枯葉が、風に舞いながら不規則に揺れる、その不規則な運動を正確に把握する力。この一見超人的と思われる能力も、瞬時にして、その時点における「風力・風向・温度・湿度、枯葉の形状、形状に沿って流れる大気や、それにより発生する微かな揚力、伴う重力」などなど、瞬時にすべてを把握し解析することができれば、枯葉がどのような軌跡を描いてどこに落ちるか、これまた瞬時に予測することができるという理論である。

 

なんと4年連続世界一を記録した、日本発のスーパーコンピューター「富岳」は、1秒間に44京2010兆回の計算ができる。これほど高度な計算能力があれば、科学者の言う「瞬時にすべてを把握し解析する」ことが可能なのではないだろうか。ただし、体育館ほどもあるスーパーコンピューターを肉体に内蔵できればではあるが。それにしても、風に舞う落ち葉の運動までも計算しようとする物理学とは、いったいなんなのだ。そして、そんな物理学に生涯をかける物理学者とは、いったいいかなる人格の持ち主なのだろう。
そんなことを思っているとき、『物理学の野望』(光文社新書)を入手した。著者は、京大理学部を卒業後、東大大学院理学系研究科を修了(素粒子物理学専攻)し、『数学独習法』『日常にひそむうつくしい数学』など、数々の著作を持つ冨島佑允氏だ。さっそく、謎に満ちたページを開いてみた。

 

しかし、身の回りで起きる現象や世界の仕組みについて、神話による説明では満足しない人たちが現れます。「火・水・土・風……身の回りにあるものはめまぐるしく変化している。どういう仕組みになっているのだろう?」などと、神話にたよらず自分の頭で考える人たち、今でいう「哲学者」が登場したのです。
なぜ、古代ギリシャにおいて、こういったことを考える人たちが現れたのでしょうか。一言でいえば、ヒマで議論好きだったからです。当時のギリシャ社会では、端的に言うと住民は「市民」と「奴隷」という2つの階級に分かれていました。(中略)
この「あり余る時間」と「自由に議論する文化」が相乗効果を発揮し、いつしか議論は政治を超えて道徳、芸術、世界の成り立ちなど様々なテーマへと広がっていきました。現代の私たちが「哲学」と呼んでいる学問は、このときの議論から生まれてきたのです。

 

物理学とは、基礎科学から派生した学問であり、科学とは、哲学的な考察から曖昧を排し、観察や実験に基づく体系的な学問である。よって哲学こそが物理学の種子であり、その萌芽が科学全般であるともいえる。そんな物理学をもって、様々な現象を紐解き、人類は科学技術を進歩させ続け、ついには人類の版図を大気圏外へと拡げ、仮想空間をも手にした。それでもまだ収まることを知らない物理学者たちの探求心は、ついには、これまでのあらゆる理論を駆使してもなお解明することの叶わぬ最終ダンジョンへと足を踏み入れた。
そこに待ち受けるラスボスが、「ブラックホール」と「宇宙の始まり」という究極の難問だ。果たして人は、物理学というダンジョンを旅する勇者たちは、この最終問題を解くことができるのだろうか。
そして、このラスボスを倒すことができたとき、人類は何を手にすることができるのだろう。

 

高名なニュートンが提唱した「光の粒子説」の方が当初は主流でしたが、ヤングの干渉実験によって「光の波動説」にも注目が集まります。さらにはマクスウェルによって光の正体は電気と磁気の波(電磁波)だとする理論が発表され、「光の波動説」は実験(ヤングの干渉実験)と理論(マクスウェル方程式)の両面から強力にサポートされる形となりました。
このようにして、光の正体が波であるという証拠は揃ったわけです。光は波ってことで一件落着……。と、そうなりそうですが、実際は簡単にはいきませんでした。というのも、光を波だと考えると説明できない実験結果が出てきたからです。(中略)
長きにわたる議論のすえに、光が波である証拠と粒子である証拠が両方とも揃ってしまったのです。(中略)
ここで重要なのは、波と粒子のいずれの説も実験によって裏打ちされているという点です。光は波と粒子の両方の性質を兼ね備えていると考えなければならないのです。このような「波動と粒子の二重性」はそれまでの物理学には全く存在しなかった概念であり、ここから全く新しい物理学である「量子力学」が生まれていきます。

 

波と粒子の両方の性質を兼ね備えた二重性……。著者は、本書の中でこの二重性をわかりやすくかつ詳細に解説するが、哀しいかな私の理解は追いついていけなかった。しかし、そうして生まれた物理学の新ジャンルである量子力学こそが、21世紀を拓くカギになるであろうことはわかる。そんな量子力学を基に開発されつつある量子コンピューターは、現在のスーパーコンピューターでは成し得ないブラックホールの解明や、宇宙の始まりに迫る究極のアイテムになると言われている。そしてついに、「ラプラスの悪魔」を白日の下にしてくれるに違いない。

 

本書『物理学の野望』は、余りにも難解な物理学者の戦うさまを、壮大な歴史物語として語り、聞く(読む)者の興味を尽きさせない最高の一冊だった。

 

森健次/著

 


『物理学の野望』光文社新書
冨島佑允/著

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