悩んでいても、おなかはすく!それは偉人だって同じこと|藤子不二雄Ⓐ『トキワ荘青春日記+まんが道』
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ryomiyagi

2022/07/01

『トキワ荘青春日記』の文章、そして『まんが道』の漫画シーンを読むと、いつでも不思議な力が湧いてきます。その2つを併せたのが『トキワ荘青春日記+まんが道』ですから、漫画ファンのみならず、お疲れ気味のかた、今この時世を懸命に生きる人にこそ、広く手に取ってほしい作品です。

 

著者は藤子不二雄Ⓐ。偉大な漫画家でありながら、その日常は私たちと同じように、悩んだり、弱音をはいたり、誘惑に負けたり、舞い上がったり……。黙々と創作に集中できる日ばかりではなかったことが、この日記からはうかがい知れます。
「明日から頑張ろう、自らに言い聞かせ、すぐ寝る」
「昨夜もまた寝ちまった。頭は悔恨で重く、たるみきった寝起き顔」
――その人間味に、そして包み隠すことのない日常の記録に「そうか、先生も同じ人間なんだなあ」とホッとし、同時に「よし、私も(明日から)グワンバロウ!」と力をもらうことができるのです。

 

先生はトキワ荘のメンバーを語るとき、つねづね「ライバルではなく、仲間だった」とおっしゃっていましたが、その心温まる友情は、先生の人間味が中心となってつなぐ部分も大きかったのだろうなあ、と勝手に想像します。

 

さて、青春の群像劇として作品がすばらしいのは大前提として、私が『トキワ荘〜』『まんが道』に共通して大好きなのが、食べもの・食事にまつわる描写です。『トキワ荘青春日記+まんが道』を編集する者として「読んでいると毎回おなかがすいて仕方ないです…」とお伝えすると、先生は「本当に?」と、大きな笑顔を見せてくださいました。

 

ここ数年は、漫画に登場する料理を再現する“まんが飯”なるブームもありました。しかし、ここに登場する昭和30年ごろの食べものは、ひとつも難しいところがなく、だからレシピが欲しくなるわけでもなく、ただただ本能が「おいしそう!」「食べたい!」と訴えかけてくるものばかりです。

 

・引越し祝いのライスカレー
・朝食にはミルクにフランスパンにクリーム
・昼食のラーメン
・夕食はコロッケに千切り大根
・おやつにピーナツをかじってお茶
・「このところ凝っている」というオムレツ
・駅前で買い食いする今川焼き
・仲間が集まる宴会でのキャベツ炒め などなど……
※ちなみに、トキワ荘の宴会では「チューダー」というお酒が定番で、焼酎とサイダーを3:7の割合で混ぜたら完成です。

 

ザ・素朴!!
そして、「このところ何もしていないのに食事がうまい。人間とは悲しい動物です……!?」という日記部分にも、「ほんとほんと……!!」と思わず呼応してしまいます。

 

私たちは思い出を呼び起こすとき、音楽や香りなどと同じように、食事の記憶がひもづいていることが多いはずです。いわゆる“思い出の味”ですね。トキワ荘メンバーの間には、漫画があり、一緒に囲む食卓がありました。大事な人と食べれば、それだけでごちそう。ちょっとした工夫をすることが、楽しくてごちそう。そんなふうに受け取ってみると、自分にとっての日々の食事、献立決めも「あまりゴチャゴチャ考えなくていいのかもねえ」と、思わぬところで力が抜け、シンプルにいただくことのすばらしさも思い起こさせてくれます。

 

先生にとって描くことが人生ならば、誰しもにとって食べることは生きること。『トキワ荘青春日記+まんが道』はさまざまな楽しみ方のできる本ではありますが、ぜひ作中の食事の描写も、昭和レトロな懐かしさとともに味わってほしいと思います。

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トキワ荘青春日記+まんが道

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藤子不二雄Ⓐ

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