「腟まわり」だってケアされたい――自分を大切にするためのフェムテック入門|栗本夏帆『うるおいの腟レッチ』
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ryomiyagi

2022/08/02

 

鍼灸には「未病治」という考え方がある。未病治とは、病気が現れる前に対策を取ることで、健康な状態を維持しようとする東洋医学の基本となる考えのこと。風邪をひかないように日頃から免疫力を意識して過ごすように、腟まわりだって日頃のケアが重要だ。鍼灸師であり、温活士でもある著者は腟ケアの大切さを次のように語る。

 

「顔のスキンケアも、腟まわりのケアも目的は同じ。例えば顔の肌が乾燥すると、かゆくなったり、吹き出物ができたり、何かしらのトラブルが起きます。そうならないために、毎日スキンケアをしますよね。(中略)部位が違うだけで、腟まわりも同じ皮膚。しかも、身体のどの部位よりも繊細な皮膚です。」

 

腟が不安定な状態にあると女性ホルモンの分泌に影響が出たり、セックスの際に痛みが生じやすくなるほか、気持ちが不安定になったりと様々な不調やトラブルを引き起こしやすくなる。

 

女性ホルモンの分泌には子宮や卵巣が関係していることも知っておくべきかもしれない。エストロゲンの分泌は年齢を重ねると減るので、腟周りの状態も変化してゆく。女性ホルモンや女性器をケアすることは難しくても、腟まわりなら髪や肌と同じようにケアすることはできそうだ。なにより、もし症状が起きたとしても、腟や腟まわりのケアをしていれば予防になるし、変化に気づきやすいというメリットもある。

 

「腟まわりのケアを続けていると肌がうるおってきます。あえて言うほどのことでもないかもしれませんが、やっぱりうるおっていることが鍵なのです。うるおいは肌のためだけではなく、自分を大事にしている表れでもあります。自分を労わる行動は自然と自信をもたらしてくれます。」

 

セルフケアには専用の保湿アイテムやケア用品が効果的だが、ストレッチもおすすめだ。東洋医学の気の概念を取り入れた、ツボを刺激する「うるツボ(身体とこころがうるおうツボ)」はぜひ試してみてほしい。顔まわりをはじめ手のひら、足裏、お腹などのツボが写真と共に紹介されている。とくに腰まわりは女性器に有効なツボが多く集まっているので、日常的に刺激すると症状の改善につながるそうだ。

 

本書では、デリケートゾーンやフェムゾーン、ハイジーンエリアなどと呼ばれる箇所のことを「腟まわり」と表現していることも述べておきたい。よく目にするデリケートゾーンという表記は、じつは医学的な名称ではなく、腟という言葉の与える印象を配慮して使われるようになった日本独自の言葉だという。こうした背景から、著者はあえて「恥ずかしい言葉ではないという意味も込めて腟まわり」という言葉を使用している。

 

とはいえ、腟もまた自分の身体の一部にほかならない。自分の身体は自分のものであるときちんと意識するためにも、自分の健康のためにも、知らないことを知ろうとするのは自然なことだと思う。

馬場紀衣(ばばいおり)

馬場紀衣(ばばいおり)

文筆家。ライター。東京都出身。4歳からバレエを習い始め、12歳で単身留学。国内外の大学で哲学、心理学、宗教学といった学問を横断し、帰国。現在は、本やアートを題材にしたコラムやレビューを執筆している。舞踊、演劇、すべての身体表現を愛するライターでもある。
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