果てしないと思われる宇宙にも「ちょうどよい感じの構造」があるって本当? ――図解 宇宙のかたち(2)
ピックアップ

 

宇宙には、なぜ「構造」があるのか

宇宙には、なぜ「構造」があるのか。宇宙の構造は、どうしてできたのか。

 

もし、宇宙に何の構造もなければ、私たち自身はこの世界に存在しない。逆に、構造がありすぎると、宇宙は激しい場所になってしまって、私たちが生きていくのには都合が悪くなるだろう。つまり、宇宙には私たちにとって「ちょうどよい感じの構造」がある。

 

宇宙の最初には、目立った構造はなかった

 

最初の宇宙には、現在のような構造はなかった。宇宙の誕生は、今から138億年前。それ以来、宇宙の様子は時々刻々と変化している。宇宙は恒久不変の存在であるかのように思っている人がいるが、それは、私たちの命が宇宙の変化する時間に比べて極端に短いからである。

 

昔の宇宙には、現在の宇宙に見られるような構造はなかった。とくに目立つような構造もなく、物質が混ざり合った状態でほぼ均一に広がっていた。

 

昔の宇宙ほど温度が高い

 

現在の宇宙は全体として温度が極めて低い。

 

だが、この冷たい宇宙は、宇宙が膨張してきた結果だ。宇宙の大きさに反比例して宇宙の全体的な絶対温度は下がっていく。例えば、宇宙の年齢が40万年のころ、宇宙の絶対温度は摂氏2500度ほどだった(現在は摂氏マイナス270度程度)。

 

様々な素粒子で満ち溢れていた初期の宇宙

 

最初の宇宙には、限られた種類の物質しかなかった。宇宙が始まってから0.00001秒くらいまでの間は、素粒子がバラバラになって宇宙全体に満ち溢れていた。素粒子とは、それ以上は分解できないと考えられている粒子で、例えば、電子やニュートリノ、クォークなどと呼ばれる粒子などのことである。

 

いずれにしても、そうした限られた種類の素粒子がほぼ均一に宇宙空間に満ち溢れていて、宇宙には特に「構造」と呼べるようなものはなかった。そして、とても温度が高かった。

 

物質の元が形作られるとき

 

宇宙が始まって0.00001秒後ごろになると、私たちがよく知っている物質の元である、陽子や中性子が作られる。その原料になったのがクォークだ。クォークが3つ集まると、陽子や中性子になる。

 

宇宙が膨張すると、温度が下がるとともに、密度も下がっていく。

 

宇宙が始まって4分後くらいになると、温度は8億度くらいになる。このくらいになると、中性子が陽子とくっついて、原子核ができるようになる。最終的に、中性子のほとんどはヘリウム原子核の中に取り込まれる。ヘリウム原子核とは陽子と中性子が2つずつくっついた原子核である。ヘリウム原子核に取り込まれなかった陽子は、そのまま水素原子核になる。

 

宇宙が始まってから数分後の世界では、宇宙にある物質は水素原子核とヘリウム原子核、そして電子とニュートリノ、および光子が主なものである。その他の原子核は極めて微量な量しかできなかった。これらの粒子が空間にほとんど一様に存在していたのである。

 

宇宙の晴れ上がり

 

さて、自由な電子は光の通路を邪魔する。したがって、自由な電子がある程度残っていると、光が宇宙空間をまっすぐ進めない。だが、自由な電子の数がかなり少なくなると、光が直進できるようになる。

 

光が直進できるようになるには、宇宙年齢にして38万年ごろである。このことを、「宇宙の晴れ上がり」という。

 

宇宙マイクロ波背景放射の等方性

 

宇宙の晴れ上がりの時点に存在していた光のほとんどは、晴れ上がりの後、そのまま宇宙を直進し続ける。そして、現在の私たちのまわりにも降り注いでくる。その光は、晴れ上がりのときには目に見える波長の光、すなわち可視光を主成分とするものだった。だが、膨脹する宇宙を直進する光の波長は伸ばされて長くなる。現在の私たちのまわりに降り注いでくるまでには1000倍ほど波長が引き伸ばされ、電波として観測される。

 

この電波は「宇宙マイクロ波背景放射」と呼ばれるものである。この宇宙マイクロ波背景放射は、宇宙のどの方向からも同じようにやってくる。

 

宇宙マイクロ波背景放射は、絶対温度が約2・7ケルビンの温度を持つ電波である。宇宙マイクロ波背景放射がどの方向からも同じようにやってくるということは、宇宙のどの方向を見ても同じ温度の電波がやってくるということだ。これを宇宙マイクロ波背景放射の等方性という。

 

密度ゆらぎ

 

宇宙の晴れ上がり時点で宇宙のどこも完全に同じ状態だったとしたら、その後の宇宙にも構造はできようがない。完全に一様な宇宙は、いつまで経っても一様なままである。だが、宇宙が完全な一様ではなく、最初の宇宙に非一様性が少しでもあるのなら、それを元にして現在の宇宙の構造を作ることができる。

 

物質量の濃淡、すなわち物質密度の空間的変化のことを「密度ゆらぎ」というが、重力には、密度の濃淡をどんどん強めようとする働きがある。この性質を、密度ゆらぎの「重力不安定性」という。

 

コズミック・ウェブ

 

重力不安定性で密度ゆらぎを増幅させるのは、物質のゆらぎである。この宇宙にある物質には、原子などの通常物質の他に、「ダークマター」と呼ばれる物質がある。

 

ダークマターとは、この宇宙に存在する正体不明の物質である。正体不明であるにもかかわらず、それがあるとわかるのは、ダークマターが重力的な影響を通常物質に及ぼすからだ。

 

宇宙初期にあったわずかな密度ゆらぎから、重力不安定性によって宇宙の大規模構造が作られる。この、複雑なネットワーク構造を持つ宇宙の様子は、コズミック・ウェブ(cosmic web, 宇宙の蜘蛛の巣構造という意味)と呼ばれている。

 

すなわち、宇宙の大規模構造は、小さな密度ゆらぎから始まって、大きなスケールで複雑なコズミック・ウェブの構造を持つまでに成長していくのだ。

 

 

以上、『図解 宇宙のかたち』(松原隆彦・高エネルギー加速器研究機構(KEK)素粒子原子核研究所教授:著、光文社新書刊)から抜粋・引用して構成した。

関連記事

この記事の書籍

図解 宇宙のかたち

図解 宇宙のかたち「大規模構造」を読む

松原隆彦(まつばらたかひこ)

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

Twitterで「本がすき」を

この記事の書籍

図解 宇宙のかたち

図解 宇宙のかたち「大規模構造」を読む

松原隆彦(まつばらたかひこ)