2019/01/09
ブレイディみかこ ライター・コラムニスト
『没イチ パートナーを亡くしてからの生き方』新潮社
小谷みどり/著
配偶者が大病にかかったことがある人なら、死別して一人になる可能性を一度は真剣に考えたことがあるだろう。わたしもわりと現実的にそうなる可能性を意識しながら生活しているほうだと思うが、とくに配偶者やパートナーが大きな病気をしたりした人でなくとも、高齢化が進む現代では、誰もが人生のけっこう長い時間を一人で生きる可能性を持っている。
で、本書を読んでつくづく感じさせられたのは、日本で配偶者やパートナーを亡くすいうことは、男性と女性でえらく意味が違うということだ。本書の意図とは違うのだろうけど、わたしがこの本を読んでもっとも学んだ点は、日本は伊達にジェンダーギャップ指数110位になってるわけじゃないんだなということだった。
まず、すごい数字だと思ったのは、2014年に著者が60代、70代の人々を対象に行った調査で、病気などで一時的に自分が寝込んだ場合に配偶者は「頼りになる」と答えた男性は71.5パーセントもいたが、女性は26.4パーセントしかいなかったという事実。また、寝たきりになったり、体の自由がきかなくなった場合に配偶者が「頼りになる」と答えた男性は58.5パーセントいたが、女性では21.5パーセントだったそうだ。
さらに、配偶者は自分のことをよく理解していると思うかという質問では、「そう思う」と答えた男性は50.2パーセントに対し、女性では20.4パーセント。つまり総合すると、日本の60代、70代の女性たちの大半は、長い結婚生活を経ても、配偶者は自分に何かあったときに頼りにならないし、自分のことも理解してくれていないと考えていることになる。
ひゅるるるる、と冷たい木枯らしが吹きすさぶような人間関係だ。
さらに、「今後、配偶者と離死別したら、新しいパートナーを見つけたいか」という質問では4割以上の男性が「自分がその立場になったら新しいパートナーがいたらいいなと思う」と色気を見せているのに対し、女性でそう思う人は15.5パーセントしかおらず、8割以上が「見つけたいとは思わない」と答えたという。
むかし、わたしが日本にいた頃から、母親世代の女性たちの多くが配偶者に不満を抱えているとか、日本の妻たちはつらいとか、そういうことはさかんに言われていたように思うが、高齢になるとこんなにも赤裸々に数字になって出てくるものなのだ。彼女たちはもう、男は懲り懲りと言っているように見える。
もう一つ驚いたのが「死後離婚」という言葉だった。なんで死んでから離婚するんだろう。相手が亡くなってからでも法的に離婚したいぐらい配偶者が憎かったのだろうか、と思っていたらそうじゃないらしい。「死後離婚」は、配偶者が亡くなった後に、相手の家族と離婚することなんだそうだ。日本の結婚はいまでも相手の家と結婚するという意味合いが強いのだという。「役所への『姻族関係終了届』の提出」と聞いて、何のこと? と思った人はこの本を読んでおくことを強くお勧めする。
いわゆるフェミニズム本ではないのだが、日本の男女間のギャップは婚姻やパートナーとの関係のなかから始まっているということをはからずも浮き彫りにしている一冊だ。
配偶者との死別なんてテーマにはぜんぜん関心ないという若い人たちや、男女を問わず、女性の問題に興味がある人にこそ一読をお勧めしたい。きっと、「え。」と思う、そして知っておいたほうがいい発見がたくさんあるはずだ。
『没イチ パートナーを亡くしてからの生き方』新潮社
小谷みどり/著