2019/06/27
吉村博光 HONZレビュアー
『サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい 人生100年時代の個人M&A入門』講談社
三戸 政和/著
サラリーマンによる「企業買収」が話題になっている。昨年、本書が発売されて以降、雑誌では特集が次々と組まれ、「クローズアップ現代+」などのテレビ番組でも度々紹介されてきた。その後も本書の続刊が発売されたり、『0円で会社を買って、死ぬまで年収1000万円』などの売行きも好調で、本屋さんの店頭にはコーナーが見かけられるようになった。
私は刊行直後に読み、すぐさまHONZで紹介した。その最後のパラグラフをまずは引用したい。⇒当時のレビュー原文はこちら
著者の提案には、説得力がある。「終身雇用は現代の奴隷制度」堀江貴文氏も、本書を推薦している。定年退職して年金暮らし、脱サラして起業。そのいずれでもない第3の選択肢を提示した大変興味深い本である。日本のサラリーマンの生き方をリフレームする、この本の意義は果てしなく大きい。 ~HONZより
本書は、いわゆるコンセプトブックである。あくまで「こういう生き方も可能ですよ」という選択肢を提示した本なのだ。決して、300万円で買える優良企業のリストが、袋とじでついているわけではない。
しかし、レビューの反響のなかには「こんなうまい話、あるわけがない」という、いわば諦めモードの批判があった。安全なレールの上を歩いているとつい忘れがちになるが、収入を得ること自体、容易いことではない。でも、人は生きるために何とかするものだ。
私の本家筋は、明治時代から続く白玉饅頭屋を営んでいる。契約農家から仕入れた純国産のうるち米と小豆を使って、毎朝、ひとつひとつ手作りしている。湿度にあわせて、作り方を調整しなければいけないので、上手くいかず捨ててしまうこともあるという。
それだけのことをして1個100円。それでも、美味しい饅頭を作り、たくさん売っている。一体、何個売れば、家族を養えるのだろう。幸いなことに私の本家は安泰だが、後継難で苦しんでいる会社が日本にはたくさんある。その数、100万社以上──。
やがて「大廃業時代」がやってくる。人生100年時代といわれるようになり、働き方が大きく変わってきている。この交点で、新しい選択肢に対して「最初から諦める」態度ではなく、「検討だけでもしてみよう」というマインドにどうしてなれないのだろうか。
身を守るために、人には変化を避ける本能があるという。しかし生物は、変化したものが生き残ってきたのだ。定年まで勤めて年金で暮らすというキャリアは、最近のものでしかない。それに気づいた人が本書を買い、次々に蜘蛛の糸を登っている。本書から抜粋する。
現在日本が直面する大きな課題、中小企業100万社が廃業するといわれる「大廃業時代」への一つの解決策を提示したい(中略)ノウハウそれ自体をみなさんに伝え、読者のみなさんにも「中小企業の経営」そのものを担っていただくことで、日本の貴重な資産である中小企業とその技術などを承継できる環境を作り上げたいと思っています。 ~本書より
日本の大企業が磨き上げた、効率的な大量生産の技術も実に見事だ。しかし、多くの中小企業に息づいている特殊技術や特産品の価値も偉大である。ボヤボヤしていると、それがすべて費えてしまうのである。
つまり、会社を買収してそれを継承することは、文化を守ることにもなる。サラリーマン時代のノウハウを活かせば、それを何倍も効率的に生み出し、何倍も多く売ることができるようにかもしれないではないか。
敷かれたレールの上をただ進むだけでなく、あなたは自らの頭で「ダイヤの原石」を見出し磨くことができるだろうか。日本の浮沈も、それにかかってくるのかもしれない。いや、それより何より、テレビでは年金が足りないかもしれないって騒いでるよ!
『サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい 人生100年時代の個人M&A入門』講談社
三戸 政和/著