たぶん今年一番の熱狂本『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』

樋口麻衣 勝木書店本店

『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』新潮社
ブレイディみかこ/著

 

 

最近、一生心に残りそうな読書体験をしました。それは、本を読んでいる途中から自分のまわりの世界の見え方が変わり始め、読み終わったころには心が軽くなり、世界がキラキラと輝いていると確かに感じるような、今までにはなかった圧倒的な体験でした。今回は、私にそんな最高の読書体験をさせてくれた1冊、『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(ブレイディみかこ著、新潮社)をご紹介します。

 

登場人物は、イギリスで暮らす著者のブレイディみかこさんと、アイルランド人のパートナーとその息子さん。小学校で生徒会長をしていたような「いい子」の息子さんが、荒れていたことで有名な元・底辺中学校に通い始めたところ、様々な壁にぶつかっていく・・・その様子を書いたエッセイです。舞台はイギリス、扱われているテーマは人種やジェンダー・貧富の格差などです。

 

まず何と言っても、息子さんのまっすぐさにやられました。息子さんの前にはたくさんの壁が現れます。その壁を友達や両親や大人たちの力を借りながら、でも最後は、自分の力で確実に乗り越えていきます。その乗り越え方の確実さとまっすぐさに心が大きく動かされました。読んでいる間、息子さんがまるで目の前にいて、きれいでまっすぐな瞳で見つめられ、問いかけられているような感覚になりました。(余談ですが、実はこの本、発売前のゲラの段階で読ませていただきました。そのときに息子さんのまっすぐな瞳が印象に残ったのですが、出来上がった本の表紙を見て、ビックリ。なんと息子さんがこちらを見つめているイラストの表紙でした!!)

 

実際に読んでみて、読んでいるうちに訪れる心の変化を体験していただきたいので、詳しい内容は書きませんが、「エンパシーとは他人の靴を履いてみること」、エンパシーという聞き慣れない言葉が、様々なエピソードから、言葉としてではなく感覚として理解できる、心の中に沁みこんでくるようなエッセイです。

 

この本を読んで、世界の見え方が変わりました。「世界」というのは遠い国のことではなくて、自分の目の前にある「日常」のことです。読み終わってまわりを見渡せば、世界に虹がかかっているように見えるほど、すごく清々しくて幸せで、前向きな気持ちになれました。

 

イギリスが舞台だとか、人種や貧富の格差がテーマだと聞くと、難しそうと思ってしまう人も多いと思います。私もそうでした。きっかけがなければ、ほとんどの人が手にとらない本かもしれません。そう思ってしまうことが本当に残念でもどかしいです。でもこの本をたくさんの人に届けたいです。

 

読書というのは、読んだ人だけの、その人個人の体験だと思っていました。でも、この本はきっと、読んだ人の心から、読んでいない人の心にも届くかもしれない1冊です。書店員としてたくさんの本とお客様に触れてきて、「この本を読んだほうがいいですよ」なんて言葉を言ったことはないし、これからもきっと言わないと思います。でも今回だけは特別です。もしも読むのを迷っておられる方がいれば、私は書店員としてではなく、この本を読み終えた一個人として、自信を持って「読んだほうがいいですよ」と言います。ぜひ読んでみてください。

 

『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』新潮社
ブレイディみかこ/著

この記事を書いた人

樋口麻衣

-higuchi-mai-

勝木書店本店

1982年福井県生まれ。担当は文庫・文芸書。書店員となるきっかけとなった『異人たちの館』(折原一著)が2018年本屋大賞の超発掘本に選ばれる。過去のブックレビューとして、WEB本の雑誌「横丁カフェ」がある。好きなジャンルはミステリですが、書店員になって読書の幅が広がって、毎日読書が楽しいです!

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