2020/01/17
小説宝石
『変半身』筑摩書房
村田沙耶香/著
この島には昔、ポーポー様という神様、ポピ原人という種族がいたとする伝説があった。島民みんなが参加するポーポー祭りが毎年行われ、最終日の夜には秘祭「モドリ」が催される。
十四歳以上の選ばれた秘祭参加者については、口外禁止である。「モドリ」に初めて参加する美術部の少女・陸と副部長の高城は、しきたりから逃げられないと語りあう。だが、もう一人の同期生・花蓮(かれん)が無茶をする。
村田沙耶香『変半身』の表題作は、劇作家・松井周と共同で原案を作り、それぞれが小説化、舞台化するプロジェクトとして書かれた。
本書所収のもう一編「満潮」が男女の性意識のギャップを扱っているように、村田はジェンダーをテーマにしてきた作家である。「変半身」では、それを歴史というテーマとともに扱っている。
少女時代の陸は「はやくみんな死ねばいいのにな」と思っていた。大人たちが死んで自分たちが一番年上になれば、島は変わると夢見たのだ。
自身が大人になり、外の社会で「勝ち組男性」の妻を演じていた陸が旧友とともに帰ると、島は激変していた。ポーポー様は捨てられ、歴史が塗り替えられていたのである。
陸は大人になる前に「モドリ」の真実を知ったにもかかわらず、なおポーポー様にこだわってしまう。
少女の頃の願いに反し、年長になった彼女は島の変化を素直に受け入れがたい。別の価値観で生きるように変身したはずだったが、半身はかつてなじんだ伝説に思いを残している、そんな状態。
思いこみに囚われる人間の滑稽さを描き、不可思議な方向へ進む物語だ。そして、島はあなたの故郷、あるいは日本の戯画であるかもしれない。
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『月の落とし子』早川書房
穂波了/著
極限状態の人類を描く、超災害ミステリ
月面に降りた宇宙飛行士が吐血し急死した。遺体を持ち帰ったクルーも次々に死亡し、ウィルスが原因と推定された。さらにその船体は日本に墜落し、高層マンションに激突炎上する。
その結果、千葉県船橋市で未知の感染症が一気に拡大する。第九回アガサ・クリスティー賞を受賞した穂波了『月の落とし子』は、国家的危機をスリリングに描いた力作だ。
感染封じこめのため、政府は非情な対策を決定する。その是非が後半の焦点になるが、作中ほどの迅速さが現実の政府にあるか、判断力が国民にあるかと考えると、さらにゾッとする。
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村田沙耶香/著