2020/02/28
竹内敦 さわや書店フェザン店 店長
『蟻たちの矜持』光文社
建倉圭介/著
我が地元の誇り、岩手県出身の作家建倉圭介は、寡作ではある(もっと描いて欲しいと地元民は願っている)が、『クラッカー』で第17回横溝正史賞佳作、『デッドライン』で「このミステリーがすごい!」2007年版第10位、第9回大藪春彦賞候補になるほどの実力派で手堅い人気のある作家。その建倉圭介の最新作『蟻たちの矜持』は4年ぶりの作品となる。
みなさまご存知「忠臣蔵」。本書はその忠臣蔵の世界や赤穂事件を現代に移して描いたフィクション、刊行は2019年11月でまさに令和忠臣蔵!ということで、年末に読むのにぴったりではあったが、私がモタモタしてる間に年が明けてしまい、それでも忠臣蔵は旧暦の12月だから!現代なら1月の出来事だから!という言い訳を用意してたのにもかかわらずさらにモタモタしてしまい、今ごろの紹介になってしまったが、季節外れでも面白いので大丈夫。きっと大丈夫。
忠臣蔵の現代版なら筋はだいたいわかってしまうのでは?と危惧したが杞憂であった。はじめこそ、医療機器メーカー「アカベック」社長の「内野匠也」って赤穂藩主浅野内匠頭じゃーん、副社長の「石倉良雄」って大石内蔵助良雄じゃーん、大企業神津(こうず)ケミクスの意地悪な社長神津義孝ってこいつが吉良上野介だな?とほくそ笑みツッコミながら読んでしまうが、物語がすすむにつれ没頭しのめり込み一気に読めた。むしろ忠臣蔵を現代にあてはめるってこうするのか!なるほど!の快作だった。
アカベックは神津ケミクスと組んで海外の大型案件の入札に挑むことになる。だが、様々な神津側の嫌がらせがあり、読者は神津憎しとなる仕掛け。そしてついにアカベックを吸収したい神津が社長の内野を罠に嵌め外国で内野は逮捕され評判を落としたアカベックは倒産の危機に陥る。しかも冤罪の内野の罪状はその国では死刑に値する罪であった。残された社員達は何とか内野の無罪を証し、会社を建て直し、神津に一矢報いようと動きだす───
ここからがこの小説の真骨頂。忠臣蔵なら討ち入りの計画を立て粛々と準備をしクライマックスへと展開する場面。これが現代版ではオーシャンズ11かミッションインポッシブルかと、さながらハリウッドばりになるのも見所。忠臣蔵が「仇討ち」ならこちらは聞いたことあるフレーズをパクると「倍返し」の痛快ドラマ。
凄いところは「忠臣蔵」に熱狂してた時代の空気感まで移植しているところ。決してただなぞらえただけではない。現代なら仇討ちに完全には共感しないが当時の倫理観ならおそらく皆が持っていただろうし、だからこそ熱狂しただろうと想像する。これがミソで現代のモラルに沿った動機や手段、結末だからこその熱が生まれている。現代人が熱狂する物語に生まれ変わっている。まさに完璧な現代版忠臣蔵なのである。
『蟻たちの矜持』光文社
建倉圭介/著