社会を変える連帯の覚悟と技術『MARCH1 非暴力の闘い』

望月優大 ライター

『MARCH 1 非暴力の闘い』 岩波書店
ジョン・ルイス/アンドリュー・アイディン/著  ネイト・パウエル/画  押野素子/訳

 

米民主党の現役下院議員であり、公民権運動の伝説的人物でもある黒人社会運動家ジョン・ルイスによる自伝的なコミック作品。1950~60年代における公民権運動の経緯について、現代のルイスが子どもたちに語り聞かせるという構成になっている。

 

子どもでも読める「社会運動の教科書」のようなコミックで、2013年、ルイスの議員スタッフであるアンドリュー・アイディンと漫画家のネイト・パウエルとの協働により制作・出版された。

 

第1巻となる本作では、「黒人お断り」の飲食店で座り込みをする「シットイン」など、ルイスら若者たちによる非暴力運動の様子が描かれている。コミックの特性がうまく生かされ、広い読者層が学び楽しめる作品になっている。

 

印象に残ったシーンがあった。シットインより前の出来事だ。ルイスが住むアメリカ南部アラバマ州の大学への入学許可をめぐって、ルイスが初対面のキング牧師に相談をする場面である。

 

その大学ではこれまで一度も黒人生徒の入学が認められたことがなく、前例を覆すには州と教育委員会を訴える必要があった。しかし、未成年のルイスが訴訟を起こすには両親の署名が必要で、キング牧師はルイスに対して次のような言葉を告げたという。

 

「訴訟にかかるお金を集めて最後まで君の力になる/しかし覚えておいてくれ/ご両親は職を失うかもしれない/家が爆破や放火の被害にあうかもしれない/ご家族とじっくり話しあいなさい」

 

白人と同等の権利を求める公民権運動を展開するにあたって、黒人たちがその内部で一枚岩を形成すること自体が簡単なことではなかった。白人による差別的支配の恐怖の中で、「面倒を起こさずにうまくやる」ことを優先する黒人たちも当然いたし、路線の違いは黒人コミュニティ内部での世代間の方向性のズレとしても顕在化し始める。

 

こうした力学がありながら、それでもなお新しい社会へと向かって運動を拡大していこうと覚悟する人々がいた。そして、彼らはより多くの仲間が連帯するための技術を次々と編み出していった。シットインなど個別の状況に即した具体的な運動テクニックの描写はとても面白く、「社会はこうやって変えるのか」と膝を打つシーンが続く。

 

『MARCH』は全三部作のコミックシリーズで、本作「非暴力の闘い」の後は、「ワシントン大行進」、「セルマ 勝利をわれらに」と出版が続く予定となっている。続きを読むのが今から楽しみで仕方ない。

 

あわせ読みのススメ
タナハシ・コーツ著 池田年穂訳『世界と僕のあいだに』慶應義塾大学出版会 2017年
➸アメリカ黒人として生きることに伴う困難について書かれた、父親から息子への一編の長い手紙

 

西山隆行『移民大国アメリカ』ちくま新書 2016年
➸「移民」という視点から現代アメリカのあり方をわかりやすく解説

 

ジョーン・C・ウィリアムズ著 山田 美明、井上 大剛訳『アメリカを動かす「ホワイト・ワーキング・クラス」という人々』集英社 2017年
➸黒人を含むマイノリティへの“不当な優遇”を感じ取る現代のアメリカ白人たちの心理を描く

 

 


『MARCH 1 非暴力の闘い』 岩波書店
ジョン・ルイス/アンドリュー・アイディン/著  ネイト・パウエル/画  押野素子/訳

この記事を書いた人

望月優大

-mochizuki-hiroki-

ライター

株式会社コモンセンス代表取締役。日本の移民文化・移民事情を伝えるウェブマガジン「ニッポン複雑紀行」編集長。経済産業省、Google、スマートニュースなどを経て独立。東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了(地域文化研究専攻)。関心領域は社会問題、社会政策、政治文化、民主主義など。趣味は旅、カレー、ヒップホップ。1985年生まれ。


・Twitter:@hirokim21

関連記事

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

Twitterで「本がすき」を