家の中で冒険気分を楽しもう!と思い読んでみた文庫本が意外とダークなお話で…?

金杉由美 図書室司書

『冒険者たち』講談社
斎藤惇夫/著

 

 

自粛で職場が休校になり家にこもっていると、集中力が欠けてかえって本が読めない。
書店も閉まっていたりして、店頭で装丁を眺める楽しみもない。
家に未読の本も沢山あって消化するいい機会なのに、その気になれない。

 

うーん…
いっそ子どもの頃に読んだ本を再読してみようかな…
軽く楽しく読めて元気出るようなやつ…
そう思って手に取ったのがこの本。

 

アニメ「ガンバの冒険」の原作といったらわかりやすいと思う。
2015年にも映画化されているので、若い世代でも知っているはず。
副題は「ガンバと十五匹の仲間」。
え?十五匹?!
そう、1975年版のTVアニメでは七匹のネズミたちだったけど原作では十五匹もいる。
ガンバ・ボーボ・ガクシャ・ヨイショ・イカサマ・シジン・忠太、の他に、マンプク・バレット・バス・テノール・オイボレ・カリック・イダテン・ジャンプの八匹が登場。
冒頭、ガンバの住んでいる穴ぐらは「長さ一間、深さ半間で、一尺四方の窓が開いている」と尺貫法で描写されていたので少し驚いた。1971年の発表であることを考えれば納得。半世紀にわたって愛され続けている物語なのだ。

 

のんびり平和に暮らしていた町ネズミのガンバは、ある日船ネズミたちの集会に参加した。
そこに島ネズミの忠太が助けを求めにやってくる。
島ではイタチのノロイ軍団に襲われてネズミたちが全滅寸前だという、
ガンバたち十五匹は彼らを救うために島へと向かった。
しかしノロイの恐ろしさは半端ではない。もともとネズミがイタチに敵うわけもないのに、催眠術まで使うのだ。美しく妖しいダンスや歌で獲物を誘い出して、ゆっくりなぶり殺しにするのが彼らのやり方。島で子育てをしていたオオミズナギドリたちもノロイたちによって妻子を殺されていた。おまけにネズミたちも一枚岩ではなく派閥があり、極限状態の中でお互いに不信感を抱いている。

 

児童文学とはいえなかなかに社会派なお話で、なおかつエグい。
だって、これ、要するに「七人の侍」なんだもの。
十五匹それぞれに仲間に加わった理由があったり、助けにきてやったのに島ネズミたちから白い目で見られたり、島の娘との淡い恋物語があったり。
ノロイ軍団との戦闘シーンも血腥くスペクタクル。おお、黒沢映画だ。
まさかのリーダーに選ばれて責任の重さに苦しむガンバ、過去にノロイに襲われ逃げることしか出来なかったヨイショとガクシャ、ダンサーとしてのプライドをかけてノロイと対決するバレット、サイコロが凶を示しても運命の中に飛びこんでいくイカサマ。
志村喬や三船敏郎はいないけど、人間くさいネズミたちのキャラクターは十二分に立っている。いやいやガクシャが稲葉義男でイカサマは宮口精二かも。
そんなわけで重い。やはり重い。
敵役のノロイの悪夢のような妖艶さも子供向きとは思えない。
我ながら小さいときにこれを読んでよくトラウマが残らなかったな…

 

救いは挿画。
動物画で著名な藪内正幸の、リアルだけど可愛らしいイラストが多数収録されていて癒される。ノロイも客観的にイラストで見ると全然怖くない。イタチとかオコジョ、フェレットって見た目は愛らしいもんね。

 

いくつもの激しい闘いを経て、物語は怒涛の終幕を迎える。
冒険の初めにイカサマのサイコロが予言したとおり、仲間のうち重要な3匹はもう帰ってこない。
大きな犠牲と引き換えにネズミたちの未来は開かれた。
元通りの日常は戻らないけれど、新しい世界が待っている。

 

うーん…
決して軽く楽しくはない。
でも、ほんの少しの元気はもらえたかも。

 

こちらもおすすめ。

『グリックの冒険』岩波書店
斎藤惇夫/著

 

人間に飼われていたシマリスのグリックが北の森を目指して旅立つ物語。
ガンバも十五匹の仲間を率いるドブネズミのリーダーとして登場する。

 

『冒険者たち』講談社
斎藤惇夫/著

この記事を書いた人

金杉由美

-kanasugi-yumi-

図書室司書

都内の私立高校図書室で司書として勤務中。 図書室で購入した本のPOPを書いていたら、先生に「売れている本屋さんみたいですね!」と言われたけど、前職は売れない本屋の文芸書担当だったことは秘密。 本屋を辞めたら新刊なんか読まないで持ってる本だけ読み返して老後を過ごそう、と思っていたのに、気がついたらまた新刊を読むのに追われている。

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