ゲラ読み「書店員」の私と、現役医師「小説家」との驚喜の出会い

山本机久美 柳正堂書店甲府昭和イトーヨーカドー店

『優しい死神の飼い方』光文社
知念実希人/著

 

 

私と小説家・知念実希人先生との出会いは、かれこれ7年前に遡る。

 

某読書記録サイト上にて、知念実希人作品の献本プレゼントに応募したことがきっかけだった。
当選した私に、なんと知念先生ご本人から本が届いたのだ。

 

当時の私は書店員7年生。
文芸担当になってからは6年目。
ゲラ読み書店員として少しずつ活動し始めた頃である。

 

献本でいただいた本は『ブラッドライン』(のちに『螺旋の手術室』と改題されて文庫化。新潮文庫)。
知念先生にとってはデビューして2作目の単行本。
これが衝撃の面白さだった。

 

「なんて上手なんだろう。このひとの作品、もっと読んでみたい」

 

幸いなことに仕入れや棚作りに関して自由に任せてもらえていたため、
「私、実は文芸担当の書店員なんです。すごく面白かったので、店で積んで応援させていただきますね」
と、思い切って知念先生にダイレクトメッセージを送ってみたのだ。(力技)

 

その時すでに次作の執筆をされていた知念先生から
「もしよかったら、次の作品のゲラを送らせてもらってもよろしいですか? ぜひ感想を聞かせていただけたら嬉しいです」とのお返事が……。

 

そうして送られてきたのが、今回ご紹介させていただく『優しい死神の飼い方』だった。

 

泣いたり笑ったり、面白くて面白くて、
「この作家さん、絶対売れる!!」と確信して、それから今日まで変わらずにずーっと応援し続けている。

 

「知念実希人」と言えば、今や言わずと知れた本屋大賞3年連続ノミネートの人気作家。
執筆スピードは早く、2020年3月に実写映画化された『仮面病棟』(病棟シリーズ・実業之日本社文庫)、『天久鷹央の推理カルテシリーズ』(新潮文庫nex)など、たくさんの人気作品を生み出している。
そのうえ、現役の内科医としても勤務されているというのだから驚きだ。
いったい、いつ寝ているんだろう?

 

と、いう疑問はさておき。

 

『優しい死神の飼い方』の主人公は死神のレオ。
ただの死神ではなく、“おちこぼれの死神”で、その姿はゴールデンレトリバー。

 

ああ、なんだ。ファンタジーか……。
などと、ガッカリしないで読み進めて欲しい。
レオの語り口は軽妙でテンポが良く、ついつい先へ先へとページを捲りたくなってしまう。

 

ある雪の日に倒れていたレオを助けてくれた看護師の菜穂のおかげで、レオは晴れて人間界のホスピス「丘の上病院」で暮らすことになった。
おちこぼれの汚名を返上して上司に認めてもらい、元の死神の姿に戻るべく、レオの奮闘が始まる。

 

丘の上病院には、余命宣告をされている患者たちが入院している。
患者たちは皆それぞれにこの世に未練を残していた。
それはそうだろう、なんの未練もなく死を迎えられる人間なんてそうそういないはずだ。

 

レオは、“地縛霊になりそうな「腐臭」を嗅ぎ取り、人の夢の中に入り込んで話しかける”能力を持っている。
さぁ君の出番だ、レオ!

 

ここから詳細を書くと大いにネタバレになってしまうので、“レオのお手柄でホスピスの3人の患者たちはこの世に残した未練を解決することができた”ということだけお知らせしておこう。

 

だがしかし、患者たちの未練の謎解きができてよかったね、では終われない。
なんとレオは菜穂からも「腐臭」が漂っていることに気づいてしまったのだ!
実は菜穂は難病を抱え、余命宣告を受けていたことがわかった。

 

ああ、なんということだろう。
ここまでで、もうかなりのネタバレ……。
あらすじも書きつつ作品の紹介をするって難しい。(泣)

 

動物好きなひとにはたまらない、天然なレオの可愛らしさにほっこりと心あたたまるハートフルミステリー。
お医者様の知念先生ならではの一冊。

 

仕事柄、「この著者の作品を読んでみたいけれど、どれから読んだらいいですか?」と聞かれることもしばしば。
そんな時、「知念先生だったら、まずはコレ!」と迷わずおすすめするのが本書。

 

決して、自分の帯コメントデビューしたのがこの作品だからという欲目ではありません。(笑)
実は、今となっては幻の文芸単行本の初版帯には、初々しい私のコメントが載っていたりして……。
所持されているあなた! 貴重ですよ!! (うるさい)
これからも大切に、何度でも読んでくださいね。

 

すでに文庫化していて大人気なので、今更おすすめもなにも、というところでしょうが、私としてはこちらでの初めてのレビューはどうしても知念先生のこの作品を書きたかった。
ぜひ読書のお供にレオの好物「しゅうくりいむ」をご用意してお楽しみくださいませ。

 

こちらもおすすめ!

黒猫の小夜曲』光文社
知念実希人/著

 

死神シリーズ続編。
こちらの主人公は黒猫の死神クロ。レオもちょこっと登場します!

 

【最近の日常】

 

2020年の本屋大賞受賞作品『流浪の月』、たまたま「山本賞」として勝手に手作り帯を巻いて応援してました。図々しいですが愛はこもっております。
表紙を真似てお皿から全て自作のお手製アイスクリームと一緒に売り場に飾ってます。
紙粘土のいちごがポイント!

 

 

 

 

『優しい死神の飼い方』光文社
知念実希人/著

この記事を書いた人

山本机久美

-yamamoto-kikumi-

柳正堂書店甲府昭和イトーヨーカドー店

戦国武将・武田信玄のお膝元、甲斐国の書店員。珍名のため、「このひとの名前なんて読むんだろう?」という疑問から、あちらこちらでフルネームをインプットされがちな文芸・文庫担当。きくみ、といいます。はじめまして! 紙と鉛筆があればゴキゲンの幼少期を過ごし、小学4年生で江戸川乱歩に出会ってから本好きに。 絵も字も書く(描く)のが好きで、いつか役に立ったらいいなとOL時代に通信教育のPOP広告講座を受講。 自分の好きな本のPOPを作って飾り、その本が売れたら最高に楽しそう♪という思いから、主婦業・ママ業をこなしつつ本屋さんで働くことにしました。 手描きPOPが好き。勢いしかないコメントが特徴。無駄に暑苦しいのはそういう仕様ですのでご了承くださいませ。

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