2021/01/19
高井浩章 経済記者
『アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」』集英社
中川裕/著
最近、今更ながら『ゴールデンカムイ』(野田サトル)にハマってしまった。ファンならご存知の通り、ハチャメチャなキャラクターとストーリーを、アイヌ文化の深い理解に根差した世界観ががっしりと支える稀有な作品だ。
本書『アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」』は『ゴールデンカムイ』の監修者を務めるアイヌ文化の研究者によるもの。個人的にアイヌ文化には長年興味をもってきたこともあり、マンガの延長線上のつもりで気軽に手に取ったところ、期待をはるかに超える良い読書になった。
まず驚かされたのはプロ意識の高さ。
数々のエピソードから、作者、監修者とも、アイヌ文化をなるべく忠実に伝えようと恐ろしいほどの労力と熱意を傾けていることが強く伝わってくる。
史料も限られ、連載の時間的制約がある中でもベストを尽くし、さらに単行本化やアニメ化の際にはセリフや作画で改善できるところがあれば徹底的に手を入れる。
「よくぞここまで」とあきれるほどの事例が淡々とつづられ、『ゴールデンカムイ』という作品の強固な土台の作られ方が見える。ここまで徹底しないと、奇人・変人大集合の金塊争奪戦という荒唐無稽な物語にリアリティーはもたせられないだろう。
創作の自由と監修の絶妙のバランスについても考えさせられた。
本書では、『ゴールデンカムイ』には演出やデフォルメの結果、厳密にいえば史実や実態とはズレがあるという指摘がいくつかある。
この「踏み外し具合」が、実に絶妙なのだ。
一見、さきほどの徹底したリアル志向とは相反するようにみえる。だが、だからこそ、ファクトを消化して軽やかに面白さやクリエイティビティを優先できる野田サトルという漫画家の凄さが分かる。そうした逸脱を作家性の発露であり作品の魅力だと認める著者の懐の深さも好ましい。
文章も読みやすく、アイヌ文化に興味を持つ入り口としても申し分ない。おまけに「史実と創作」について考える手がかりにもなる。マンガとあわせて一読をお勧めする。
『アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」』集英社
中川裕/著